牛乳小売業者が、継続的に牛乳の卸売を受けて来た仕入先に対し、右取引上の債務を担保するため、所有店舗に根抵当権を設定し代物弁済の予約を結んでいた場合において、代金の支払を遅滞したため、取引を打ち切り担保権を実行する旨の通知を受けるに及んで、これを免れて従前どおりの営業の継続をはかる目的のもとに、原判示(原判決理由参照)のように、右仕入先と示談のうえ、債務の支払猶予を受け、前記店舗を営業用動産や営業権等とともに現在および将来の債務の担保として譲渡担保に供したとき、右行為は、当時の諸般の事情に照らし、営業を継続するための仕入先に対する担保提供行為として合理的限度をこえず、かつ、他に適切な更生の道がなかつたものと認められるかぎり、詐害行為とならない。
譲渡担保の設定が詐害行為にならないとされた事例
民法424条
判旨
支払遅滞に陥った債務者が、取引の継続により更生を図るため、やむを得ず特定の債権者に譲渡担保を提供した行為は、担保提供として合理的な限度を超えず、更生のために適切な方策といえる場合には、詐害行為にあたらない。
問題の所在(論点)
支払不能等の窮状にある債務者が、特定の債権者に対して既存債務及び将来の債務を担保するために譲渡担保を設定する行為が、詐害行為取消権(民法424条1項)の対象となるか。
規範
債務者が特定の債権者に対して担保を提供し、一般債権者のための一般担保を減少させる結果を招く場合であっても、(1)取引の打切りを免れ営業を継続して更生の道を見出す等の合理的な目的があり、(2)その目的のための担保提供行為として合理的な限度を超えず、(3)他に適切な更生策が存しなかったと認められる特段の事情がある場合には、詐害行為にはあたらない。
重要事実
債務者であるD社及びその代表者Eは、被上告会社に対する牛乳類の買掛代金約244万円の支払を遅滞していた。D社は、被上告会社からの取引打切りや建物への根抵当権実行等を回避し、従前通り牛乳類の供給を受けて小売営業を継続し、更生の道を見出す必要があった。そこでD社らは示談の結果、支払猶予を得た既存債務及び将来の取引債務の担保として、本件建物等の資産を被上告会社に譲渡担保に供した。
あてはめ
D社による担保提供は、取引継続による小売営業の維持と更生を目的としたものであり、当時の諸般の事情に照らせば目的達成のために合理的な限度を超えたものとはいえない。また、かかる担保提供により取引打切りを回避すること以外に、D社が更生するための適切な方策は存在しなかった。したがって、本件行為により結果的に一般担保が減少するとしても、他の債権者からの介入を許すべき詐害行為としての違法性は欠けるというべきである。
結論
本件担保提供行為は詐害行為にあたらない。上告を棄却する。
実務上の射程
特定の債権者への担保提供が、単なる優先的弁済を目的とするのではなく、事業継続による更生を図るための「やむを得ない合理的手段」といえる場合には、詐害意思を否定、あるいは違法性を欠くとして詐害行為性を否定する。答案では、債務者の窮状、取引継続の必要性、提供された担保の価値の妥当性といった事実を、本判例の「更生の道を見出すための合理的限度」という枠組みで評価する際に活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)1270 / 裁判年月日: 昭和42年6月29日 / 結論: 棄却
総債権者のための唯一の共同担保である債権の譲渡が、判示のような事情から債務の本旨に従つた弁済と同視しえず、かつ、他の債権者を害することを知りながらされたときは、右債権譲渡は債権者詐害行為にあたる。