一、入会権確認訴訟において、入会権者が死亡した場合には、入会慣行に従つて死亡者に代わり入会権を取得した者が、その訴訟手続を承継する。 二、従前入会権の対象となつていた土地が、明治初年の官民有区分処分によつて官有地に編入されたとしても、その入会権は、右処分によつて当然には消滅しなかつたものと解すべきである。
一、入会権確認訴訟における入会権者の死亡と訴訟承継人 二、明治初年の官民有区分処分による官有地編入と入会権の帰すう
民法263条,民法294条,民訴法208条
判旨
明治初期の官民有区分処分によって官有地に編入された土地であっても、入会権の消滅が明文で規定されていない限り、当然には消滅しない。編入後も従前の入会慣行が容認され、植栽・培養を含む継続的な利用事実が認められる地域においては、入会権が依然として存続すると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
明治初期の官民有区分処分によって山林原野が官有地に編入された場合、その土地について従前存在していた慣行による入会権は当然に消滅するか。
規範
明治初期の官民有区分処分による官有地編入によって、土地の地盤に関する所有権が国に帰属しても、その地上に存した入会権は当然には消滅しない。官有地編入後に入会権を整理する近代的な政策(立入り制限や借地料徴収等)がとられた地域では消滅または移行したものと解されるが、従前の植栽・培養を伴う入会慣行がそのまま容認されていた地域においては、入会権が存続すると解する。本判断と抵触する大審院判例は変更される。
重要事実
青森県屏風山の一角(本件土地)は、江戸時代から地元部落民が防風林として植栽し、薪炭材の採取等を行ってきた。明治9年頃の官民有区分処分で官有地に編入されたが、部落民はその後も「村山」として松の植栽・保護を継続し、毛上物(立木等)の収益を各戸へ平等に分配してきた。また、他村へ移転した者は権利を失い、分家して一戸を構えた者は権利を取得するという「世帯主を単位とする自然村の入会慣行」が維持されていた。
事件番号: 昭和29(オ)769 / 裁判年月日: 昭和32年9月13日 / 結論: 破棄差戻
入会地のある部分を「分け地」と称して部落民のうちの特定の個人に分配し、その分配を受けた個人がこれを独占的に使用収益し、自由に譲渡することが許される慣行が存するときは、特段の事情のない限り、「分け地」については入会権の存在を否定すべきである。
あてはめ
本件土地は官有地編入後も借地権設定などの近代的な整理がなされず、むしろ県知事から地元村組合への保護取締の委託が行われていた。また、部落民が労力を投じて植栽した立木は部落有(総有)と認められ、官地民木林台帳にも記名共有の形式で記載されている。戸主が共同で伐採・分配を行い、収益を公共事業に充てるなど、従前通りの入会慣行が実態として継続・容認されている。したがって、官有地編入による消滅事由は認められず、現在も入会権が存続しているといえる。
結論
明治初期の官民有区分処分は地租改正を目的とした地盤の所有権確定手続にすぎず、入会権を当然に消滅させる効力はない。本件のように慣行が容認・継続されている場合には入会権が存続する。
実務上の射程
官有地編入による入会権消滅を認めていた旧大審院判例を明確に変更した重要判例である。入会権の存否が争われる事案において、行政処分による外形的な権利変動よりも、その後の継続的な利用実態(植栽・培養・収益分配)を重視する規範として活用できる。答案上は、物権法上の入会権の成否、特に公有地・国有地における入会権の存続を論じる際の必須の準拠枠組みとなる。
事件番号: 昭和37(オ)1365 / 裁判年月日: 昭和42年3月17日 / 結論: 棄却
明治二一年町村制の施行後、区の所有であつて当該区の部落民の入り会つていた入会地について、その後六五年間に、部落の統制が次第に当該区会の統制に移行し、区が従前の入会地の一部を処分し、全入会地を管理して使用収益方法を定め、部落民も異議なくこの方法に従つて当該土地の使用収益をするにいたり、また従前部落の入会権行使の統制機関で…
事件番号: 平成18(受)336 / 裁判年月日: 平成20年4月14日 / 結論: 棄却
共有の性質を有する入会権に関する各地方の慣習の効力は,入会権の処分についても及び,入会集団の構成員全員の同意を要件としないで同処分を認める慣習であっても,公序良俗に反するなどその効力を否定すべき特段の事情が認められない限り,有効である。