不動産が二重に売買された場合において、買主甲がその引渡を受けたが、登記欠缺のため、その所有権の取得をもつて、のちに所有権取得登記を経由した買主乙に対抗することができないときは、甲の所有権の取得時効は、その占有を取得した時から起算すべきものである。
不動産の二重売買と所有権の取得時効の起算点
民法162条
判旨
不動産の第一買主が占有を開始した場合、後に第二買主が所有権移転登記を経由したとしても、第一買主の取得時効の起算点は自己の占有開始時である。第一買主は、時効完成時の所有者に対しては、登記なくして所有権の時効取得を対抗できる。
問題の所在(論点)
不動産の第一買主が占有を継続している間に、第二買主が先に所有権移転登記を経由した場合において、第一買主の取得時効の起算点をいつに設定すべきか(民法162条)。
規範
不動産の二重譲渡において、第一買主が登記を備えない間に第二買主が登記を経由した場合、第一買主は当初から所有権を取得しなかったことになる。したがって、第一買主による当該不動産の占有は自己の物の占有ではなく他人の物の占有にあたり、民法162条の取得時効の対象となる。その起算点は、実質的な所有権喪失時(第二買主の登記時)ではなく、占有を開始した時と解すべきである。また、時効完成当時の所有者は物権変動の当事者に準ずる関係にあるため、時効取得者は登記なくして所有権を対抗できる。
重要事実
上告人(第一買主)は、昭和27年1月に本件土地を買い受け、同年2月から占有を開始したが、登記は未了であった。その後、昭和33年にF(第二買主)が相続人から本件土地を買い受けて登記を完了し、さらに転売を経て、被上告人が昭和34年6月に登記を経由した。上告人は、占有開始時を起算点として10年の短期取得時効が成立したと主張したのに対し、原審は、第二買主が登記を備えた時(昭和33年)を起算点とすべきであり、時効期間を満たさないとして上告人の請求を排斥したため、上告人が上告した。
事件番号: 昭和42(オ)348 / 裁判年月日: 昭和42年12月15日 / 結論: 棄却
明治二三年当時における法制下においても、登記は公示方法に過ぎず、所有権移転の要件ではないと解すべきである。
あてはめ
上告人は昭和27年2月の引渡し以来、本件土地を占有している。二重売買において登記を具備した第二買主Fが完全な所有権を取得する結果、第一買主である上告人は当初から所有権を取得しなかったことになるため、占有開始時から「他人の物」を占有していたといえる。したがって、起算点は占有を開始した昭和27年2月6日となる。この時点から10年が経過した昭和37年2月時点で、占有が所有の意思をもって、善意・無過失(推定含む)で行われていれば、時効が完成する。本件では、被上告人は時効完成当時の所有者であるから、上告人は登記なくして時効取得を対抗できる。原審が起算点を第二買主の登記時とした判断は、民法162条の解釈を誤るものである。
結論
取得時効の起算点は占有開始時である。原判決を破棄し、無過失の有無や時効中断事由の存否を審理させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
二重譲渡と取得時効の関係におけるリーディングケース。答案では「時効完成前の第三者」との対抗関係において、本判例を根拠に占有開始時を起算点として時効を認定し、完成時の所有者には登記不要(177条の第三者に該当しない)とする論理構成で用いる。
事件番号: 昭和45(オ)55 / 裁判年月日: 昭和48年1月26日 / 結論: 破棄差戻
不動産の交換契約の当事者甲が、右契約に基づき相手方乙の提供した不動産の占有を開始しても、甲が右契約の締結に際し詐欺を行ない、そのため右契約が乙の錯誤により無効と認められるときは、右占有は、所有の意思をもつて善意・無過失で開始されたと認めるべきではない。
事件番号: 昭和43(オ)921 / 裁判年月日: 昭和44年3月6日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和40(オ)246 / 裁判年月日: 昭和41年12月20日 / 結論: 棄却
取得時効の成否の判断にあたり、占有開始の起算日についてその弁論が、判示のように口頭弁論調書に記載されている以上、右日時をもつて占有を開始した事は当事者間に争いがない旨判示しても、原判決には違法があるとはいえない。
事件番号: 昭和42(オ)268 / 裁判年月日: 昭和43年10月29日 / 結論: 棄却
甲から不動産所有権の譲渡を受けた乙が、所有権取得登記未経由のまま、右不動産を丙に譲渡したのち、かさねてこれを丁に譲渡した場合において、丙は、自己の所有権取得登記を経由しないかぎり、その所有権取得を丁に対抗することができない。