民法七四二条一号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ婚姻の届出自体については当事者間に意思の合致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないときは、婚姻は効力を生じない。
民法七四二条一号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」の意義
民法742条
判旨
民法742条1号にいう「婚姻をする意思がないとき」とは、単に婚姻届出の意思がない場合だけでなく、真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思がない場合をいう。他の目的を達成するための便法として婚姻届出がなされたにすぎない場合、婚姻は無効である。
問題の所在(論点)
婚姻の届出を出すこと自体には合意があるが、それが別目的(子の嫡出子化)のための便法である場合、民法742条1号の「婚姻をする意思」があるといえるか。実質的な意思の要否が問題となる。
規範
民法742条1号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指す。たとえ婚姻の届出自体について意思の合致があり、法律上の夫婦という身分関係を設定する意思が一応認められる場合であっても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないときは、真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がないものとして、婚姻は効力を生じない。
重要事実
上告人と被上告人は婚姻の届出を行った。この届出にあたり、両者の間には、子であるDに対して嫡出子としての地位を得させるという目的があった。そのため、婚姻届を出すこと自体については合意があったものの、被上告人において、上告人との間に真に社会観念上の夫婦関係を築く意思は存在しなかった。
あてはめ
本件では、子の嫡出子化という「他の目的を達するための便法」として婚姻届出が仮託されている。被上告人には、届出の意思こそあれど、「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」が欠けているといえる。したがって、形式的な届出意思の合致はあるものの、実質的な婚姻意思を欠くものと解される。
結論
本件婚姻は、当事者間に真に夫婦関係を創設する意思がないため、民法742条1号により無効である。よって上告は棄却される。
実務上の射程
婚姻の有効要件として、届出という形式的意思だけでなく、実質的意思(実態を伴う夫婦関係創設の意思)が必要であることを明示した。偽装結婚や、本件のように子への身分付与のみを目的とした婚姻の効力を否定する際のリーディングケースとなる。
事件番号: 昭和32(オ)764 / 裁判年月日: 昭和34年7月3日 / 結論: 棄却
当事者の意思に基く届出を欠いた婚姻については、第三者もその利益があるかぎり無効確認の訴を提起し得べく、右第三者が当該婚姻届出書類を偽造した本人であるからといつてこれを別異に解すべきではない。
事件番号: 昭和47(オ)209 / 裁判年月日: 昭和48年4月12日 / 結論: 棄却
一、夫婦が共同して養子縁組をするものとして届出がされたところ、その一方に縁組をする意思がなかつた場合には、原則として、縁組の意思のある他方の配偶者についても縁組は無効であるが、その他方と縁組の相手方との間に単独でも親子関係を成立させることが民法七九五条本文の趣旨にもとるものではないと認められる特段の事情がある場合には、…