硫黄鉱区の採掘権を有する甲が鉱石を採掘して乙に売り渡す硫黄鉱石売買契約において、甲は、乙に対し、右契約の存続期間を通じて採掘する鉱石の全量を売り渡す約定があつたなど判示の事情がある場合には、信義則上、乙には、甲が右期間内に採掘した鉱石を引き取る義務があると解すべきである。
硫黄鉱石売買契約の買主に引取義務が認められた事例
民法1条,民法413条,民法555条
判旨
継続的供給契約において、買主が信義則上目的物を引き取るべき義務を負う場合、引取拒絶により契約期間が満了したときは、当該引取義務は買主の責めに帰すべき事由により履行不能になったものとして、損害賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
継続的供給契約において、買主に目的物の「引取義務」が認められるか。また、引取拒絶のまま契約期間が満了した場合、履行不能として損害賠償責任を負うか。
規範
売買契約は一般に代金支払義務と目的物引渡義務を対価関係とするが、特定の継続的供給契約においては、契約の性質および信義則に照らし、買主が目的物を引き取るべき義務を負う場合がある。この引取義務を負う買主が義務に違反して引取を拒絶し、そのまま契約期間が終了した場合には、当該引取義務は買主の責に帰すべき事由により履行不能(債務不履行)になったものと解するのが相当である。
重要事実
硫黄鉱石の採掘・販売を行う売主(被上告人)と、その全量を買い取る約定を締結した買主(上告人)との間で、継続的供給契約が成立していた。契約期間中、市況の悪化を理由に買主が一方的に出荷中止を要請し、売主が準備した鉱石の引取を拒絶した。その後、買主は前渡金の返還を要求するなど引取拒絶の態度を維持したまま、契約期間が満了した。売主は、買主に対し、引取義務の不履行に基づく損害賠償を請求した。
あてはめ
本件契約は、売主が採掘する鉱石の全量を対象とする継続的供給契約であり、売主は採掘した鉱石を順次出荷し、買主はこれを引き取って代金を支払うべき法律関係にあった。信義則上、買主には引取義務が認められる。買主は、市況悪化という自己の都合により、売主が提供・準備した約1612トンの鉱石の引取を拒絶し、そのまま契約期間を終了させた。これは、買主の責に帰すべき事由により引取義務が履行不能になったといえる。買主側は、市況変化に対する適切な協議も行っておらず、売主に信義則違反や重大な過失があるとはいえない。
結論
買主に引取義務が認められ、その不履行(履行不能)に基づく損害賠償責任が認められる。買主の上告は棄却された。
実務上の射程
通常、買主の受領遅滞は債権者不当として論じられるが、本判例は、契約の性質(全量引取の継続的契約等)から「引取義務」という債務性を認め、履行不能による損害賠償(415条)を認める構成をとる。答案上は、契約解釈や信義則を根拠に受領行為を「義務」へと昇華させる際の重要判例として活用する。
事件番号: 昭和40(オ)210 / 裁判年月日: 昭和41年9月8日 / 結論: 破棄差戻
他人の権利を目的とする売買の売主が、その責に帰すべき事由によつて、該権利を取得してこれを買主に移転することができない場合には、買主は、売主に対し、民法第五六一条但書の適用上、担保責任としての損害賠償の請求ができないときでも、なお債務不履行一般の規定に従つて損害賠償の請求をすることができるものと解するのが相当である。