起訴前の勾留の裁判に対する準抗告申立の利益は、起訴後は失われる。
起訴前の勾留の裁判に対する準抗告と起訴後におけるその利益
刑訴法60条,刑訴法207条,刑訴法429条1項2号,刑訴法433条
判旨
起訴前の勾留の裁判に対する準抗告の利益は、被疑者が同一事実により起訴された後は失われる。また、不服申立ての対象とされていない裁判に対して判断を下した決定は、取消しの対象となる。
問題の所在(論点)
1. 不服申立ての対象を誤解して下された決定の効力(処分権主義的過誤)。 2. 起訴前の勾留に対する準抗告の利益は、同一事実による起訴後も存続するか。
規範
1. 裁判所は、当事者が不服を申し立てた対象(申立の趣旨)についてのみ裁判すべきであり、不服申立ての対象とされていない裁判に対して判断することは、手続上の重大な違法となる。 2. 刑事訴訟法上の不服申立てにおいて、申立ての利益は裁判時に存在することを要する。起訴前の勾留の裁判に対する準抗告について、被告人が同一事実により起訴された場合には、起訴後の勾留(刑訴法60条以下)へと移行するため、もはや起訴前の勾留の裁判(刑訴法207条1項)を争う実益は失われる。
重要事実
申立人は、器物損壊等の被疑事実による勾留の裁判に対し、準抗告を申し立てた。しかし、原裁判所はこれを「勾留取消請求却下の裁判」に対する準抗告であると誤認して棄却決定を下した。申立人はこれに対し特別抗告を申し立てたが、その審理継続中に、申立人は同一事実により起訴され、勾留が継続した状態となった。
事件番号: 昭和42(し)26 / 裁判年月日: 昭和42年8月31日 / 結論: 棄却
甲被疑事実による勾留を利用して乙被疑事実につき取り調べた後、いつたん釈放し直ちに乙被疑事実により逮捕勾留した場合において、乙事実について公訴が提起され、その後も勾留理由があるときは、起訴前の段階における右のような勾留およびその勾留中の捜査官の取調べの当否は、起訴後における勾留の効力に影響を及ぼさない。
あてはめ
1. 原決定は、申立人が勾留の裁判に対して不服を申し立てたにもかかわらず、誤って勾留取消請求却下の裁判を対象として判断を下しており、不服申立ての対象外の事項を判断した違法がある。これは著しく正義に反するため、刑訴法411条1号を準用して取り消すべきである。 2. 本件準抗告の対象である勾留の裁判について検討すると、申立人は既に同一事実により起訴されている。起訴後は刑事訴訟法60条に基づく裁判所による勾留へと法的な性質が移行するため、起訴前の裁判官による勾留の裁判を準抗告で取り消す実益は消滅しており、申立ての利益が失われているといえる。
結論
原決定を取り消す。申立人は既に起訴されており、準抗告の利益が失われているため、本件準抗告を棄却する。
実務上の射程
被疑者勾留の裁判に対する準抗告の利益に関するリーディングケースである。答案上は、起訴後の準抗告の適法性を問う文脈で使用する。実務上、起訴後の身分拘束を争う場合は、勾留理由開示や勾留取消請求、あるいは起訴後の勾留決定に対する抗告を用いるべきであり、起訴前の手続を争う準抗告は不適法(利益なし)となる点に留意する。
事件番号: 昭和42(し)1 / 裁判年月日: 昭和42年5月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留に対する準抗告を棄却した決定に対し特別抗告がなされた場合であっても、被疑者が釈放されたときは、当該抗告について裁判をする実益がない。 第1 事案の概要:被疑者は銃砲刀剣類所持等取締法違反等の容疑で勾留され、これに対する準抗告が棄却されたため、弁護人が特別抗告を申し立てた。しかし、当該特別抗告の…
事件番号: 平成7(し)40 / 裁判年月日: 平成7年4月12日 / 結論: 棄却
一 勾留に関する処分を行う裁判官は職権により被疑者又は被告人の勾留場所を変更する旨の移監命令を発することができる。 二 裁判官に移監命令の職権発動を促す趣旨でされた勾留取消し請求を却下した裁判に対する不服申立ては許されない。
事件番号: 平成9(し)179 / 裁判年月日: 平成9年10月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留取消し請求を却下する裁判は、刑事訴訟規則6条にいう「訴訟手続」には含まれない。 第1 事案の概要:勾留取消しの請求に対し、裁判所がこれを却下する裁判を行った事案において、当該却下の裁判が刑事訴訟規則6条に規定される「訴訟手続」に該当するか否かが争点となり、特別抗告がなされた。 第2 問題の所在…
事件番号: 昭和29(し)49 / 裁判年月日: 昭和29年9月18日 / 結論: 棄却
刑訴第四二九条による請求(いわゆる準抗告)についてした決定に対しては、高裁に抗告をすることはできない。