刑の執行猶予言渡取消決定を受けた者が特別抗告により右決定の取消の裁判を得ても、その間に受けた刑の執行につき刑事補償法に準拠して補償を請求することはできない。
刑の執行猶予言渡取消決定が特別抗告審で取り消される以前すでに刑の執行を受けた場合と刑事補償
刑事補償法1条,刑事補償法25条
判旨
刑の執行猶予言渡取消決定が特別抗告審で取り消された場合、それ以前に執行された刑については、刑事補償法1条や25条の規定を直接適用または準用して補償を請求することはできない。
問題の所在(論点)
刑の執行猶予言渡取消決定が上級審で取り消される前に、当該決定に基づき執行された刑の執行について、刑事補償法1条または25条に基づき(あるいは同条を準用して)補償を請求することができるか。
規範
刑事補償法は、刑事訴訟手続において無罪の裁判を受けた者(1条)、または免訴・公訴棄却の裁判を受けたが本来無罪の裁判を受けるべき十分な事由がある者(25条)に限り補償を認める。執行猶予取消決定が後に取り消されたケースはこれら各条の定める要件に該当せず、また同条を準用して補償を許容することもできない。
重要事実
請求人は、刑の執行猶予言渡取消決定に対し即時抗告をしたが棄却された。その後、特別抗告を申し立てたが、特別抗告に執行停止の効力がないため、最高裁の決定前に刑が執行された。最終的に最高裁(特別抗告審)は原決定を取り消し、執行猶予取消請求を棄却する裁判を確定させた。請求人は、この確定前に受けた刑の執行に対し、刑事補償法の適用ないし準用により補償を求めた。
事件番号: 平成6(し)127 / 裁判年月日: 平成6年12月19日 / 結論: その他
再審判決の一部有罪部分についての執行猶予付き本刑に裁定算入及び法定通算された未決勾留は、再審判決確定当時既に執行猶予期間が満了し本刑の執行の可能性がない場合には、刑事補償の対象となる。
あてはめ
刑事補償法1条は「無罪の裁判」を、25条は「無罪の実質がある免訴・公訴棄却」を要件としている。本件の請求人は、執行猶予取消決定が取り消されたに過ぎず、刑事訴訟手続において「無罪の裁判」を受けた者には当たらない。また、同法は補償の対象を厳格に限定している趣旨と解されるため、明文のない執行猶予取消の取消しについて類推適用(準用)を認める余地もない。
結論
本件補償請求は刑事補償法の定める要件に該当せず、準用も認められないため、棄却されるべきである。
実務上の射程
刑事補償法が限定列挙的な性質を持つことを示す。執行猶予取消の確定前執行という「手続上の瑕疵」や「不当な拘束」があったとしても、同法による無過失責任の救済対象にはならない。実務上は、国家賠償法に基づく違法な公権力行使としての構成を検討すべき事案である(団藤補足意見参照)。
事件番号: 昭和53(し)87 / 裁判年月日: 昭和53年11月22日 / 結論: その他
一 刑法二六条の二第三号にいう「執行ヲ猶予セラレタルコト発覚シタルトキ」とは、検察官において新たに執行猶予を言渡した裁判に対し上訴してこれを是正するみちがとざされたのちに同条同号所定の執行猶予の前科の存在する事実を覚知したことをいい、検察官が右事実をすでに覚知しながら上訴申立をすることなく執行猶予の裁判を確定させたとき…
事件番号: 昭和44(し)12 / 裁判年月日: 昭和44年10月15日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予の言渡しを取り消すべき原因とされた後罪の有罪判決が、上訴権回復請求の認容により未確定の状態に復帰した場合には、当該執行猶予取消決定は違法として取り消されるべきである。 第1 事案の概要:申立人は窃盗罪により懲役1年、執行猶予4年の判決を受けていた。その猶予期間内に職業安定法違反等の罪を…
事件番号: 昭和55(し)129 / 裁判年月日: 昭和55年12月9日 / 結論: 棄却
本刑に算入された未決勾留日数については、その刑が執行猶予付の場合においても、未決勾留としては刑事補償の対象とはならない。