一 私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合がある。 二 多数の信徒を擁するわが国有数の宗教団体の教義ないしあり方を批判しその誤りを指摘するにあたり、その例証として摘示した「右宗教団体の会長(当時)の女性関係が乱脈をきわめており、同会長と関係のあつた女性二名が同会長によつて国会に送り込まれていること」などの事実は、同会長が、右宗教団体において、その教義を身をもつて実践すべき信仰上のほぼ絶対的な指導者であつて、公私を問わずその言動が信徒の精神生活等に重大な影響を与える立場にあつたなど判示の事実関係のもとにおいては、刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる。 三 刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右するものではない。
一 私人の私生活上の行状と刑法二三〇条の二項一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」 二 刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるとされた事例 三 刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断方法
刑法230条ノ2第1項
判旨
私人の私生活上の行状であっても、その携わる社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の程度に照らし、当該活動への批判・評価の資料となる場合は、刑法230条の2第1項の「公共の利害に関する事実」に当たる。
問題の所在(論点)
私人の私生活上の醜聞に関する事実が、刑法230条の2第1項にいう「公共の利害に関する事実」に該当するか。特に、宗教団体の指導者の私生活上の行状がこれに含まれるかが問題となる。
規範
「公共の利害に関する事実」に該当するか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきである。私人の私生活上の行状であっても、①その者が携わる社会的活動の性質、および②これを通じて社会に及ぼす影響力の程度等に照らし、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料となり得る場合には、同要件を満たし得る。なお、表現方法や事実調査の程度は、公益目的(230条の2第1項)の有無の認定等において考慮されるべき事柄であり、事実の公共性の判断を左右しない。
重要事実
雑誌『月刊ペン』の編集局長である被告人が、宗教団体Bの教義批判の一環として、同会の会長Cが複数の女性会員と乱脈な異性関係にある等の事実を記事に掲載し、名誉を毀損したとして起訴された事案。Cは多数の信徒を擁する団体の絶対的指導者であり、その言動は信徒の精神生活に重大な影響を与え、かつ政治的活動等を通じて社会一般にも少なからぬ影響を及ぼす立場にあった。
あてはめ
Cは、日本有数の宗教団体の指導者として、信徒の精神生活に絶対的な影響を及ぼすのみならず、政治的活動等を通じて社会一般に対しても大きな影響力を有していた。また、相手方の女性らも元国会議員等の有力な会員であった。このようなCの社会的活動の性質・影響力に照らせば、摘示された異性関係の行状は、同人の指導者としての資質や団体のあり方に対する批判・評価の資料となる。したがって、表現方法が侮辱的であることや調査の不十分さを理由に公共性を否定した原判決は、230条の2第1項の解釈を誤っている。
結論
被告人が摘示した事実は「公共の利害に関する事実」に該当する。原判決及び第一審判決を破棄し、真実性の証明や公益目的の有無を審理させるため、本件を第一審に差し戻す。
実務上の射程
私人の私生活に関する事実であっても、その者の社会的地位や活動内容によっては230条の2の違法性阻却(または処罰否定)の対象になり得ることを示した。答案上は、まず事実自体の内容から「公共性」を客観的に判断し、その後の「公益目的」の段階で主観面や表現態様を検討するという二段構えの構成をとる際の基準となる。
事件番号: 昭和30(あ)949 / 裁判年月日: 昭和30年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】名誉毀損罪において、専ら公益上の立場から抽象的に公人の態度へ警告を加えるにとどまらず、具体的な事実を摘示して個人の社会的評価を低下させた場合には、同罪が成立し得る。 第1 事案の概要:被告人が、被害者である公人の態度に対し、公益上の立場から抽象的に警告を加えるにとどまらず、その社会的評価を低下させ…
事件番号: 昭和33(あ)890 / 裁判年月日: 昭和33年9月16日 / 結論: 棄却
日本共産党佐賀県委員会の機関紙である新聞「A」第七号の広告欄に掲載された「祝発展、佐賀県労働基準局長B」なる広告文は、同人において右A紙の発展に祝意を表明するとの趣旨を記載した同人名義の私文書であつて、刑法第一五九条第一項にいわゆる「事実証明に関する文書」にあたる。