路上の車からA重油を店舗内に給油するに際し、店舗外壁に設けられた給油口を開弁せずにコンプレツサーを作動させたため、給油口に連結したビニールホースが裂け、二リツトル程度のA重油が霧状となつて飛散し、たまたま店舗内で燃焼中の暖房用ストーブに降りかかつて引火し、店舗等が火炎により焼燬したという本件事実関係(原判文参照)のもとにおいては、右給油作業の過誤により火災を惹起することにつき、予見可能性があつたということができる。
給油作業の過誤による火災発生の予見可能性があつたとされた事例
刑法116条,刑法117条の2
判旨
住宅・店舗密集地域での給油作業において、作業上の過誤により霧状となった重油が、近隣に存在する火気に引火して火災を惹起することについては予見可能性があると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
過失犯(業務上過失致死傷罪や業務上過失失火罪等)の成立要件として、給油作業上の過失から発生した飛散重油が、偶然存在したストーブの火に引火して火災に至るという一連の経過につき、予見可能性があるといえるか。
規範
過失犯における予見可能性は、当該行為から結果が発生することについて、一般的・客観的な経験則に基づき予見可能な範囲にあれば足りる。特に火災等の重大な危険を伴う作業においては、具体的な引火原因となった火気が特定されていなくとも、近隣に存在し得る火気と相まって火災が発生する蓋然性を認識し得れば、予見可能性が認められる。
重要事実
被告人は、住宅・店舗の密集地域において、路上に停車した車から店舗内へA重油を給油する作業に従事していた。その際、店舗外壁の給油口を開弁せずにコンプレッサーを作動させる過誤を犯した。これにより、給油口に連結したビニールホースが圧力で裂け、約2リットルのA重油が霧状に飛散した。この霧状の重油が、たまたま店舗内にあった燃焼中の暖房用ストーブに降りかかり、引火して店舗等が焼失する火災が発生した。
事件番号: 平成10(あ)579 / 裁判年月日: 平成12年12月20日 / 結論: 棄却
鉄道トンネル内における電力ケーブル接続工事に際し、施工資格を有してその工事に当たった者が、ケーブルに特別高圧電流が流れる場合に発生する誘起電流を接地するための接地銅板を接続器に取り付けることを怠ったため、誘起電流が大地に流されずに、接続器本体の半導電層部に流れて炭化導電路を形成し、長期間にわたり同部分に集中して流れ続け…
あてはめ
まず、本件現場は住宅・店舗の密集地域であり、日常生活上、暖房器具等の火気が近隣に存在する可能性は極めて高い。次に、給油口を閉じたまま加圧給油を行えば、ホースが破損し可燃性の高い重油が飛散することは容易に予見できる。そして、飛散した重油が霧状になれば、近隣に存在する火気に引火して火災を惹起することは、一般的経験則に照らし十分予測可能な事態といえる。したがって、たまたま点火中であった特定のストーブへの引火という詳細な経過を具体的に予見できずとも、近隣に存する火気と相まって火災を招くことへの予見可能性は肯定される。
結論
被告人には本件火災発生についての予見可能性が認められ、過失責任を負う。
実務上の射程
本判決は、過失犯の予見可能性の対象について、因果関係の細部(どの火気に引火したか等)までを要求せず、危険な結果を惹起する一連の経過を概括的に予見できれば足りることを示したものである。答案上では、過失の有無を論じる際の「予見可能性の対象」の具体性・程度を判断する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和45(あ)1809 / 裁判年月日: 昭和46年12月20日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和58(あ)829 / 裁判年月日: 昭和60年10月21日 / 結論: 棄却
一 刑法一一七条の二にいう業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 二 刑法二一一条にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。 三 ウレタンフオームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者として、易燃物であるウレタンフオームを管理するうえで当然に伴う火災…