一 被告人が国選弁護人を通じて正当な防禦活動を行う意思がないことを自らの行動によつて表明したものと評価すべき判示の事情のもとにおいては、裁判所が国選弁護人の辞意を容れてこれを解任してもやむをえない。 二 被告人が国選弁護人を通じて正当な防禦活動を行う意思がないことを自らの行動によつて表明したため、裁判所が国選弁護人の辞意を容れてやむなくこれを解任した場合、被告人が再度国選弁護人の選任を請求しても、被告人においてその後も判示のような状況を維持存続させたとみるべき本件においては、裁判所が右再選任請求を却下した措置は相当であり、このように解しても憲法三七条三項に違反しない。 三 国選弁護人は、辞任の申出をした場合であつても、裁判所が辞任の申出について正当な理由があると認めて解任しない限り、その地位を失うものではない。 四 国選弁護人から辞任の申出を受けた裁判所は、解任すべき事由の有無を判断するに必要な限度において、相当と認める方法により、事実の取調をすることができる。
一 国選弁護人の解任がやむをえないとされた事例 二 被告人の国選弁護人選任請求を却下した裁判所の措置の当否と憲法三七条三項 三 国選弁護人の辞任の申出と解任の裁判の要否 四 国選弁護人の解任の裁判と事実の取調
憲法37条3項,刑訴法36条,刑訴法43条3項,刑訴規則1条2項
判旨
被告人が国選弁護人に対し暴行・罵倒を繰り返し、権利擁護のため正当な防御活動を行う意思がないことを自ら表明したと評価できる場合には、形式的な再選任請求があっても、裁判所はこれに応じる義務を負わない。訴訟法上の権利であっても誠実に行使されるべきであり、権利の濫用にあたる場合はその効力を認められないため、憲法37条3項には違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が国選弁護人に対し不当な言動や暴行を行い、真摯に弁護を受ける態度を欠く状況において、再三なされる国選弁護人選任請求を却下することは、被告人の国選弁護人依頼権(憲法37条3項)を侵害するか。
規範
訴訟法上の権利は、刑事訴訟規則1条2項に基づき誠実に行使されるべきであり、濫用してはならない。被告人が憲法上の権利を行使する形式をとる場合であっても、それが権利の濫用にあたると認められる特段の事情がある場合には、その効力を認めないことができる。したがって、被告人が国選弁護人による正当な防御活動を受ける意思がないことを自らの行動で表明し、誠実な権利行使とは認められない場合には、裁判所は国選弁護人の選任義務を負わない。
事件番号: 昭和50(あ)1699 / 裁判年月日: 昭和51年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人との信頼関係の破綻を理由とする国選弁護人の辞任申出に対し、その責任が被告人側にもあること等の諸般の事情を考慮して辞任を認めないことは、憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:国選弁護人が、被告人らとの信頼関係が破綻したことを理由に裁判所に対して辞任の申出を行った。これに対し、第一審裁…
重要事実
被告人らは当初から特定の公判方式を主張して裁判所の案を拒否し、選任された国選弁護人らに対し「信用していない」等の暴言を吐いた。さらに、代表者打ち合わせの場において弁護人に服を掴んで引き戻すなどの暴行を加え、罵倒を継続したため、国選弁護人らは辞意を表明し解任された。その後、被告人らは国選弁護人の再選任を請求したが、裁判所が暴行等の再発防止を確約するよう求めたのに対し、被告人らは「無条件選任が義務である」と主張して確約を拒否し、裁判長の訴訟指揮にも服さない態度を維持した。
あてはめ
被告人らの行為は、当初から特定の訴訟運営に固執し、あえて国選弁護人の活動を妨害するものであって、権利擁護のため正当な防御活動を行う意思がないことを自ら表明したものと評価できる。また、解任後の再選任請求においても、裁判所による誠実な権利行使の確認(再発防止の確約)を拒否しており、その請求は誠実な権利行使とは到底いえない。このような特段の事情がある状況下での請求は権利の濫用にあたり、憲法37条3項が保障する正当な権利行使の範囲を逸脱している。したがって、裁判所が選任義務を負わないと判断し、請求を却下した措置は相当である。
結論
被告人が弁護人への暴行等により防御の意思を欠くことを自ら表明し、権利を濫用する場合には、国選弁護人選任請求を却下しても憲法37条3項に違反しない。
実務上の射程
本判決は、国選弁護人選任権という憲法上の重要な権利であっても、信義則(刑訴規1条2項)による制約を受け、権利の濫用が認められる場合には制限しうることを示した。実務上は、単なる弁護方針の相違ではなく、本件のような暴行・罵倒、訴訟指揮への組織的な拒否といった極めて限定的な状況において、裁判所の選任義務を否定する根拠として用いるべきである。
事件番号: 昭和50(あ)271 / 裁判年月日: 昭和50年10月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が国選弁護人の辞任申出を却下したとしても、弁護活動が不十分であったと認められない限り、憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の第一審公判において、国選弁護人が辞任の申出を行ったが、裁判所はこれを容れなかった。また、被告人側は本件と他事件との併合審理を要求したが、これも認められ…
事件番号: 昭和52(あ)1354 / 裁判年月日: 昭和53年2月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の弁護人依頼権が実質的に侵害されたと認められない限り、憲法37条3項違反の主張は前提を欠き、上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人は、憲法37条3項違反(弁護人依頼権の侵害)等を理由に上告を申し立てた。しかし、記録上、被告人が弁護人を依頼する機会が不当に妨げられた事実は認められず、…
事件番号: 昭和50(あ)887 / 裁判年月日: 昭和51年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律上共犯関係にない多数の事件との併合審理を拒否すること、及び国選弁護人の辞任申出を却下し弁護活動を継続させることは、特段の事情がない限り被告人の権利を侵害するものではない。 第1 事案の概要:被告人らは、自らの事件と「昭和44年10月11月闘争」と称される多数の別事件との併合審理(統一公判)を求…
事件番号: 昭和50(あ)1321 / 裁判年月日: 昭和51年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が法廷の秩序を乱し退廷命令を受けた場合や、国選弁護人が辞任届を提出しつつ不出廷を貫く場合において、被告人不在・弁護人不出廷のまま審理・判決を行うことは、憲法31条、37条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは、第一審裁判所が被告人及び弁護人側の要求する事前の統一折衝や特定の審理方式を受…