工場誘致に関する事務を担当していた甲県及び乙市の職員が、乙市内に工場用地を買いたい旨申し込んだ者を、乙市において開発し工場誘致を図つていた工場団地に案内したが、希望にそう土地がなかつたことから、かねて被告人らから売却処分方を依頼されていた土地に案内しこれを買い入れるようあつせんした場合において、被告人が、右あつせん行為に対する謝礼として、前記職員に対し現金を供与しても、贈賄罪は成立しない。
工場誘致に関する事務を担当していた地方公共団体の職員に対する贈賄罪の成立が否定された事例
刑法197条1項,刑法198条1項
判旨
賄賂罪の「職務」には、本来の職務執行行為に加え、これと密接な関係を有する準職務行為または事実上所管する職務行為が含まれるが、公的な工場誘致の窓口をきっかけとした私有地の売買あっせんは、これに当たらない。
問題の所在(論点)
公務員が本来の職務(公的な工業団地への誘致)の過程で、職務外の私有地の売買をあっせんした場合、そのあっせん行為が「職務に関し」といえるか(職務密接関連性の範囲)。
規範
刑法197条にいう「職務に関し」とは、公務員の職務執行行為そのものだけでなく、これと密接な関係のある行為に関する場合をも含む。ただし、ここにいう「密接な関係のある行為」とは、公務員の職務執行行為と何らかの関係があれば足りるというものではなく、職務に密接な関係を有するいわば「準職務行為」または「事実上所管する職務行為」であることを要する。
重要事実
大和郡山市等の工場誘致担当職員ら(B、C、D)は、市が造成したc団地への工場誘致を職務としていた。工場用地を求める企業Iに対し、職務としてc団地を案内したが適地がなかったため、以前から市議会議員(被告人A)らより個人的に売却を頼まれていた本件私有地を案内し、売買をあっせんした。売買成立後、Aは土地転売利益の中からBらに謝礼を交付したため、贈賄罪で起訴された。
あてはめ
Bらの本来の職務は、市が開発したc団地への工場誘致である。c団地に適地がない場合に、私的な依頼に基づき私有地を案内し売買をあっせんする行為は、職務執行の契機(窓口での相談)が公務であったとしても、それ自体が「準職務行為」や「事実上所管する職務行為」としての実質を備えるものとは認められない。したがって、当該あっせん行為は「職務に関し」なされたものとはいえず、その対価として交付された金員は賄賂に当たらない。
結論
被告人Aによる金員の交付は、公務員の職務に関するものとはいえず、贈賄罪は成立しない(無罪)。
実務上の射程
「職務密接関連性」を認めるための限界を示した判例である。窓口業務という「公務の機会」を利用した行為であっても、その内容が純然たる私的行為(私有地の仲介等)に留まる場合は、準職務行為性を否定し、賄賂罪の成立を限定する判断枠組みとして答案上活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)4361 / 裁判年月日: 昭和30年7月20日 / 結論: 棄却
被告人は特別都市計画法に基く広島市東部地区土地区劃整理委員会の委員として、換地に関する事項その他同法所定の土地区劃整理について工事施行者である広島市長の諮問に対し審議答申する職務を担当しているものであるが、判示の各日時に判示各場所において、A外一名から同人等の各土地の換地等について斡旋等をしたことに対する謝礼の趣旨とし…
事件番号: 昭和39(あ)1716 / 裁判年月日: 昭和40年10月19日 / 結論: 棄却
刑法第一九七条にいう公務員の職務とは、公務員がその地位にもとづいて取り扱うすべての執務をいい、独立の決裁権があることを必要としないものと解するのが相当である。