五、〇〇〇坪をこえる農地を農地以外の用途に転用するため、所有権移転の許可申請書を都道府県知事を経由して農林大臣に提出する場合において、市町村農業委員会がまず右申請書を受理し、その内容を検討したうえ意見書を付してこれを知事に送付する慣行があるときは、右農業委員会の委員がその手続における審議及び決定に加わることは、同委員会の委員の職受に密接な関係を有する行為として刑法第一九八条、第一九七条にいわゆる職務に当る。
刑法第一九八条第一九七条にいわゆる職務に当るとされた事例
刑法198条,刑法197条,農業委員会等に関する法律6条3項,農地法5条1項,農地法関係事務処理要領(昭和27・11・25農林省農地局長通達27地局3707号)(既墾地の部)その(1)の(2)の1の5,農地法関係事務処理要領の改正について(昭34・11・13農林省農地局長通達34地局第5507号)の1の(6)
判旨
公務員が法令上管掌する職務そのものではなくても、その職務と密接な関係を有する行為につき収賄した場合には、刑法上の収賄罪が成立する。行政指導や慣例に基づき事実上行われている事務であっても、それが当該機関の権限に関連し継続的に行われている以上、職務密接関連事務として「職務」に含まれる。
問題の所在(論点)
法令に直接の根拠がなく、行政指導や慣例に基づき事実上行われている事務(職務密接関連事務)に関し賄賂を収受した場合、刑法197条1項の「職務」に関するものとして収賄罪が成立するか。
規範
刑法197条1項の「職務」には、公務員が法令上直接管掌する職務のみならず、これと「密接な関係を有する行為」も含まれる。具体的には、法令上の明文規定がなくとも、通達や行政指導に基づき慣例として事実上行われている事務であって、当該行政機関の本来の権限(諮問答申権等)の範囲内にあると認められるものは、職務密接関連事務として同条の職務に該当する。
重要事実
被告人は農業委員会の委員であった。当時、5000坪を超える農地の転用許可は農林大臣の権限であり、市町村農業委員会の関与について直接の法令規定はなかった。しかし、神奈川県では農林省の通達に基づき、知事が許可申請を処理する過程で農業委員会の意見を聴くことが慣例化しており、申請書はまず農業委員会に提出され、同委員会が意見書を付して知事に送付する実務が運用されていた。被告人は、この事務手続における審議に関し、賄賂を収受したとして収賄罪で起訴された。
あてはめ
本件農業委員会が行っていた意見書の送付手続は、農林省の通達や県の行政指導に基づき慣例として継続的に行われていたものである。また、農業委員会等に関する法律6条3項は、農業委員会が他の行政庁に対し建議・答申できる旨を定めている。そうであれば、本件の慣行は包括的な諮問に対する個別の答申としての性質を有しており、農業委員会の本来の権限と密接に関連しているといえる。したがって、被告人が当該手続における審議や決定に加わる行為は、農業委員としての職務と密接な関係を有する行為(職務密接関連事務)にあたる。これを否定して収賄罪の成立を争う弁護側の主張は採用できない。
結論
被告人の行為は「職務」に関するものと認められ、収賄罪が成立する。本件上告を棄却する。
実務上の射程
収賄罪における「職務」の範囲を拡張する「職務密接関連事務」の法理を確立した重要判例である。答案では、対象事務に直接の法令根拠がない場合に、①実務上の慣習・慣例の有無、②通達等の内部規程の存在、③当該機関の一般的権限(法的な一般的職務権限)との関連性を指摘し、本判例を引用して職務性を肯定する流れで用いる。
事件番号: 昭和49(あ)2887 / 裁判年月日: 昭和51年2月19日 / 結論: 破棄自判
工場誘致に関する事務を担当していた甲県及び乙市の職員が、乙市内に工場用地を買いたい旨申し込んだ者を、乙市において開発し工場誘致を図つていた工場団地に案内したが、希望にそう土地がなかつたことから、かねて被告人らから売却処分方を依頼されていた土地に案内しこれを買い入れるようあつせんした場合において、被告人が、右あつせん行為…