一 角材の柄付きプラカード等を所持して集団示威運動を行つていた学生集団の先頭部分の学生のうち、所携の右プラカード等を振り上げて警察官をめがけて殴りかかつている状況を相互に目撃し得る場所に近接して位置し、しかもみずから警察官に対し暴行に及んだ者あるいは暴行に及ぼうとしていた者についてまで、右行為は各自の個人的な意思発動による偶発的行為であるとして、兇器準備集合罪にいう共同加害目的の存在を否定した原判決は、判示の事情のもとにおいては、事実を誤認した疑いがあり、破棄を免れない。 二 昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例四条は、同条にいう所要の措置が違反行為の態様、公共の秩序に対する侵害の程度等に応じて必要な限度を超えてはならないことを規定したものであつて、無許可の集団示威運動に対し、これを直ちに実力で阻止し解散させなければならないほど明白かつ切迫した事態にない限り阻止することも許されないとする趣旨ではない。
一、共同加害の目的が認められないとして兇器準備集合罪の成立を成否を否定した原判決に事実誤認の疑いがあるとされた事例 二、無許可集団示威運動と昭和二十五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例四条飯田橋
刑法95条1項,刑法208条ノ2第1項,刑訴法411条3号,集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(昭和25年東京都条例44号)4条
判旨
凶器準備集合罪の共同加害目的は、集合者全員の集団意思を要さず、一部の暴行を機に周囲の者が順次波及的に有するに至った場合でも認められる。また、無許可デモに対する警察の制止措置は、直ちに解散させなければならないほど明白かつ切迫した事態でなくとも、違反の態様に応じた必要な限度内であれば適法な公務執行にあたる。
問題の所在(論点)
1. 凶器準備集合罪の成立に、集合者全員による明示の統一された意思連絡や集団意思としての共同加害目的が必要か。 2. 無許可デモに対する警察の制止措置(阻止線形成等)が適法な職務執行といえるための要件。
規範
1. 凶器準備集合罪(刑法106条の2)の「共同加害目的」は、集合者全員または大多数の集団意思である必要はなく、構成員の一部が暴行を開始した際、その行動を相互に目撃し得る場所に近接していた者が、順次波及的に共通の加害意思を有するに至った場合も含まれる。 2. 公務執行妨害罪(刑法95条1項)における職務の適法性は、無許可の集団示威運動に対し、条例に基づき行われる制止措置が、違反の態様や公共の秩序に対する侵害の程度に応じて必要な限度を超えないものであれば認められる。明白かつ切迫した危険がある場合に限定されない。
事件番号: 昭和61(あ)42 / 裁判年月日: 平成元年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】社会運動の一環として行われた行為であっても、その手段、方法、規模、態様が社会通念上相当な範囲を逸脱する場合には、正当な行為として違法性が阻却されることはない。 第1 事案の概要:被告人らは、自らの主張を実現するための社会運動等に関連して、一定の手段、方法を用いて特定の行為(詳細な行為態様は判決文か…
重要事実
被告人らを含む約200名の学生集団は、東京都公安委員会の許可を受けずに、角材付きプラカードを携行して「B粉砕」等と叫びながら集団示威運動(デモ)を行った。警察署長らが無許可デモの中止を警告したが学生らは無視して進行。機動隊が阻止線を形成したところ、先頭付近の学生らが角材で警察官を殴打・刺突する等の暴行を加えた。原審は、一部の暴行は偶発的であり共同加害目的を欠くこと、また警察の阻止線形成は明白かつ切迫した事態でないため違法な公務執行であるとして無罪(または一部暴行罪のみ)とした。
あてはめ
1. 被告人らは集団の先頭に位置し、一部の学生が警察官に暴行を加える状況を相互に目撃し得る近接した場所にいた。この場合、特段の事情がない限り、暴行に及んだ者や武器を振り上げた者は順次波及的に共同加害意思を有するに至ったと認めるのが相当である。 2. 学生集団は警告を無視して道幅一杯に広がって進行し、警察官に対し一方的に暴行を加えた。このような状況下での阻止線形成は、条例(東京都条例4条)に基づく正当な制止行為であり、明白かつ切迫した事態の存否を問わず、必要かつ相当な限度内の措置として適法な公務執行にあたる。
結論
被告人らには凶器準備集合罪および公務執行妨害罪の共謀共同正犯が成立する余地がある。原審の判断には、共同加害目的の認定に関する経験則違反と、職務の適法性に関する法令解釈の誤りがあるため、破棄差し戻しを免れない。
実務上の射程
凶器準備集合罪における「目的」の認定手法(現場での順次的・波及的な意思形成)を示す重要判例。また、公務執行妨害罪における職務の適法性判断について、必要性・相当性の観点から広めに認める実務の傾向を裏付ける。答案上は、現場で生じた突発的な暴行から共謀や目的を推認する際の論拠として活用する。
事件番号: 昭和54(あ)846 / 裁判年月日: 昭和54年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法208条の2に規定される「兇器」等の文言は、憲法31条が要求する刑罰法令の明確性の原則に照らして、あいまい、不明確であるとはいえない。 第1 事案の概要:被告人らは、凶器準備集合罪(刑法208条の2)の規定に関し、「兇器」等の文言が不明確であり、罪刑法定主義を定める憲法31条に違反すると主張し…
事件番号: 昭和50(あ)1596 / 裁判年月日: 昭和50年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法208条の2(凶器準備集合罪・結集罪)にいう「凶器」の意義について、その規定内容が不明確であるとはいえず、憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人Aら4名は、凶器準備集合罪等の罪状で起訴された。第一審および控訴審において有罪判決を受けたため、被告人らは最高裁判所に対し、同条に規定され…
事件番号: 昭和50(あ)1887 / 裁判年月日: 昭和51年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律上共犯関係に立たない多数の事件との併合審理を求める被告人の統一公判要求を退けることは、被告人の裁判を受ける権利等を侵害せず正当である。 第1 事案の概要:被告人らは、自らの被告事件と「昭和44年10月11月闘争」と称される多数の別個の事件について、一括して審理を行う「統一公判」を要求した。しか…
事件番号: 平成5(あ)253 / 裁判年月日: 平成7年5月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】集団的な実力行使が正当な抵抗権の行使として憲法上保障されるかは、その行為の手段、方法、規模、態様を総合考慮して決せられるべきであり、違法性が阻却されない態様での行為は憲法違反を構成しない。 第1 事案の概要:被告人らは、凶器準備結集等の罪に問われた事案において、自らの行為は憲法上の抵抗権等に基づく…