一 過失による道路交通法七〇条(安全運転の義務)違反の罪が成立するためには、他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したこと自体について過失が存することを要する。 二 川口市a町方面から同市b町方面に向かう西川口陸橋に接続する取付道路(幅員九・六メートル)をb町方面に向かつて下降し、この取付道路がその南北両側にこれと並行して水平に走る各市街路(幅員各六・二メートル)と合して幅員二二・七メートルの水平道路となつた地点(判文参照)は、道路交通法二条五号にいう交差点にあたらない。
一 過失による安全運転義務違反罪の成立要件 二 道路交通法二条五号という交差点にあたらないとされた事例
道路交通法70条,道路交通法119条1項9号,道路交通法119条2項,道路交通法2条5号,道路交通法37条1項,刑法211条
判旨
車両の運転者は、適切な右折・転回等の準備態勢に入った後は、特段の事情がない限り、後続車が交通法規を遵守して事故を回避することを信頼して運転すれば足りる。したがって、後続車の追突を避けるために周到な後方確認を尽くすべき注意義務を当然に負うものではない。
問題の所在(論点)
道路交通法70条の安全運転義務違反(同法119条2項、1項9号)において、適切な進路変更等の態勢に入った先行車の運転者が、後続車との衝突を避けるために高度な後方警戒義務を負うか。また、同条違反を過失犯として処断する際の要件は何か。
規範
右折や転回等の準備態勢に入った運転者は、特段の事情がない限り、後続車の運転者が交通法規に従い追突等の事故を回避するよう正しく運転することを信頼して運転すれば足りる(信頼の原則)。特段の事情がない限り、それ以上に周到な後方の安全確認を尽くして後続車の追突を避けるよう配慮すべき注意義務はない。
重要事実
被告人は、幅員約9.6メートルの取付道路を走行中、交差点(または転回地点)の手前約70〜80メートルで右折の合図をし、時速約20キロメートルに減速して右折(約180度の転回)を開始した。被告人は後続車Aを認識していたが、後続車Aがかなりの高速で接近し、被告人車両の右側に衝突した。第一審および原審は、被告人が後続車の通過を待つなどの安全運転義務(道路交通法70条)を怠ったとして過失による違反を認めた。
あてはめ
被告人は十分な余裕を持って右折合図を行い、速度を減速させており、右折準備態勢に特段の落度はなかった。当時、現場付近には被告人車と後続車A以外に車両はなく、後続車Aが前方注視を怠らなければ事故は容易に回避できた。このような状況下では、後続車との衝突を避けるために特に後方を確認すべき「特段の事情」があったとはいえず、被告人に後続車の不適切な運転までを予見して事故を回避すべき注意義務を課すことはできない。
結論
被告人が「他人に危害を及ぼすような速度と方法」で運転したとはいえず、また過失の内容も確定されていない。したがって、安全運転義務違反の成立を認めた原判決には法令解釈の誤りおよび審理不尽があり、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
交通過失事犯において「信頼の原則」を適用し、先行車の注意義務を限定した重要な射程を持つ。答案上では、道交法上の義務違反の有無を検討する際、適法に合図や減速を行った運転者に対し、後続車の法規違反(前方不注視等)を前提とした過度な注意義務を否定する論拠として用いる。
事件番号: 昭和47(あ)1086 / 裁判年月日: 昭和48年4月19日 / 結論: 破棄差戻
道路交通法七〇条、一一九条二項、一項九号の過失による安全運転義務違反の規定は、その構成要件を充たすかぎり、過失犯処罰規定を欠く同法の他の各条の運転者の義務違反の罪の過失犯たる内容を有する行為についても適用される。
事件番号: 昭和44(あ)1497 / 裁判年月日: 昭和45年12月22日 / 結論: 破棄自判
交差する左方の道路で、しかも交差する道路(優先道路を除く。)の幅員より明らかに広い幅員の道路から、交通整理の行なわれていない交差点にはいろうとする自動車運転者としては、その時点において、自己が道路交通法六八条に違反して時速八〇キロメートルで運転をしていたとしても、交差する右方の道路から交差点にはいろうとする車両等が交差…
事件番号: 昭和41(あ)2622 / 裁判年月日: 昭和42年3月16日 / 結論: 棄却
対向車が被告人の運転する車両の進路である道路の左側部分を通り容易に右側に転じないような特殊な場合には、被告人が交通法規に従つてそのまま進行すれば対向車と衝突し、死傷の結果を生ずることが予見できるのであるから、自動車運転車としては、まさに警音器を吹鳴して対向車に避譲を促すとともに、すれ違つても安全なように減速して道路左端…