道路交通法七〇条、一一九条二項、一項九号の過失による安全運転義務違反の規定は、その構成要件を充たすかぎり、過失犯処罰規定を欠く同法の他の各条の運転者の義務違反の罪の過失犯たる内容を有する行為についても適用される。
道路交通法七〇条、一一九条二項、一項九号は過失犯処罰規定を欠く同法の他の各条の運転者の義務違反の罪の過失犯たる内容を有する行為にも適用されるか
道路交通法70条,道路交通法119条1項9号,道路交通法119条2項,道路交通法(昭和46年法律98号による改正前のもの)25条2第1項
判旨
道路交通法70条の安全運転義務は個別的義務を補充する趣旨であり、他の個別義務違反の過失犯が処罰されない場合でも、同条後段の要件を充たす限り過失犯として処罰可能である。
問題の所在(論点)
道交法上の個別的義務(本件では後退禁止義務)に過失犯処罰の規定がない場合、当該個別規定の過失犯的内容を有する行為について、一般的補充規定である安全運転義務(同法70条)の過失犯として処罰することができるか。
規範
道路交通法70条と他の個別的義務規定は法条競合の関係にある。同条は個別規定を補充する趣旨であり、構成要件としては個別規定に該当する行為をも包含する。したがって、個別規定に過失犯処罰がない場合であっても、具体的な道路・交通・車両等の状況において、他人に危害を及ぼす客観的な危険のある速度や方法で運転し、かつ運転者に過失が認められる場合には、同法70条後段・119条2項(現119条3項1号)の安全運転義務違反の過失犯が成立し得る。
重要事実
被告人は、道幅が狭く見通しの極めて悪い三差路において、後方を確認せず軽信したまま国道へ貨物自動車を一気に後退させ、走行中の乗用車に衝突させた。第一審はこれを故意の安全運転義務違反(道交法70条)としたが、原審(控訴審)は、被告人の行為は過失による後退禁止違反(旧同法25条の2第1項)に該当し、同罪には過失犯処罰規定がない以上、補充的な70条の過失犯としても処罰できないとして無罪を言い渡したため、検察官が上告した。
あてはめ
被告人は、国道を走行する車両があり、かつ見通しが極めて悪い状況下で、交通状況を十分に確認せず後退の時機・方法等の判断を誤り、車体後部を国道車道内に突出させた。この行為は、単なる後退禁止違反にとどまらず、具体的状況に照らして他人に危害を及ぼす客観的な危険のある方法による運転にあたる。そうであれば、仮に個別規定(25条の2第1項)に過失犯処罰がなくとも、70条後段の安全運転義務違反の過失犯の構成要件を充足し、処罰の対象となる。
結論
個別規定に過失犯処罰がない場合でも、道交法70条の要件を満たす限り、同条の安全運転義務違反の過失犯として処罰できる。原審は法令の解釈適用を誤っており、破棄差し戻しを免れない。
実務上の射程
道路交通法の一般的補充規定としての70条の性格を明確にした判決である。答案上は、個別義務(速度、追い越し、後退等)の故意が否定される場面や、個別義務の過失犯処罰がない場面において、実質的な危険性が高い場合に安全運転義務違反(過失犯)を予備的に検討する際の論拠となる。
事件番号: 昭和45(あ)710 / 裁判年月日: 昭和46年10月14日 / 結論: 破棄差戻
一 過失による道路交通法七〇条(安全運転の義務)違反の罪が成立するためには、他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したこと自体について過失が存することを要する。 二 川口市a町方面から同市b町方面に向かう西川口陸橋に接続する取付道路(幅員九・六メートル)をb町方面に向かつて下降し、この取付道路がその南北両側にこれと並…