道路交通法七〇条以外の同法各案に定められている運転者の義務違反の罪が成立する場合には、その行為が同時に右七〇条違反の罪の構成要件に該当しても、同条違反の罪は成立しない。
道路交通法七〇条違反の罪の規定と同法の他の各条に定められている運転者の義務違反の罪の規定との関係
道路交通法70条,道路交通法119条1項9号,道路交通法119条2項
判旨
道路交通法70条の安全運転義務違反の罪と、同法の他の条項に定める具体的個別的義務違反の罪との関係は法条競合にあたり、具体的義務違反の罪が成立する場合には安全運転義務違反の罪は成立しない。
問題の所在(論点)
道路交通法上の具体的個別的義務(本件では42条の交差点等での徐行義務)に違反する行為が、同時に同法70条の安全運転義務違反の構成要件にも該当する場合、両罪の罪数関係をいかに解すべきか。安全運転義務違反の罪が独立して成立するかが問題となる。
規範
道路交通法70条に規定される安全運転義務は、同法の他の各条に定められている運転者の具体的個別的義務を補充する趣旨で設けられた規定である。したがって、同条違反の罪と具体的義務違反の罪との関係は法条競合にあたり、個別具体的な義務違反の罪が成立する場合には、その行為が同時に同法70条の構成要件に該当しても、同条違反の罪は成立しない。
重要事実
被告人は普通乗用車を運転し、交通整理が行われておらず、かつ左右の見通しがきかない交差点に、時速約10キロないし15キロメートルで進入した。その際、徐行して左右の安全を確認すべき注意義務があるにもかかわらず、安全確認不十分のまま漫然と進行して他車と接触した。一審および原審は、この事実を道路交通法70条(安全運転義務)違反の過失犯に該当すると判断した。
あてはめ
被告人の行為は、左右の見通しがきかない交差点における徐行義務違反(道交法42条、119条1項2号)に該当する事実である。安全運転義務(70条)は具体的義務を補充する関係にあるため、本件のように具体的義務違反の罪が成立する場面においては、法条競合により当該具体的義務違反の罪のみが成立し、補充的な規定である安全運転義務違反の罪は成立しないと解される。したがって、一審および原審が70条違反の成立を認めた点には法令適用の誤りがある。
結論
具体的義務違反の罪が成立する場合、道路交通法70条違反の罪は成立しない。本件では法令適用の誤りがあるが、不利益変更禁止等の観点から原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
道路交通法における「安全運転義務」の補充性を明確にした判例である。司法試験の答案上は、特別法と一般法の関係(法条競合)を論じる際の枠組みとして利用できる。具体的には、より要件が限定的な個別条項(徐行義務、一時停止義務等)に該当する事実がある場合には、安易に包括的な安全運転義務を適用すべきではないという実務上の準則を示すものである。
事件番号: 昭和45(あ)710 / 裁判年月日: 昭和46年10月14日 / 結論: 破棄差戻
一 過失による道路交通法七〇条(安全運転の義務)違反の罪が成立するためには、他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したこと自体について過失が存することを要する。 二 川口市a町方面から同市b町方面に向かう西川口陸橋に接続する取付道路(幅員九・六メートル)をb町方面に向かつて下降し、この取付道路がその南北両側にこれと並…