一 勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、その行為が争議行為に際し行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない。 二 A労働組合員らの争議行為の際における被告人ら三名の本件信号所各侵入行為(被告人甲は、信号所の勤務員三名を勧誘、説得してその職務を放棄させ、勤務時間内の職場集会に参加させる意図をもつて、駅長の禁止に反して侵入したもの、また、被告人乙および丙は、労働組合員ら多数が同信号所を占拠した際にこれに加わり、それぞれ侵入したもの。判文参照)は、いずれも刑法上違法性を欠くものではない。このように解して被告人ら三者の刑事責任を問うことは、憲法二八条に違反しない。 三 鉄道営業法四二条一項により鉄道係員が当該の旅客、公衆を車外または鉄道地外に退去させるにあたつて、旅客、公衆が自発的な退去に応じない場合、または危険が切迫する等やむをえない場合には、鉄道係員において当該具体的事情に応じて必要最少限度の強制力を用いることができる。このように解しても、憲法三一条に違反しない。 (注)判示事項および裁判要旨の四項以下はカード番号二六号の二に続く。 四 旧「鉄道公安職員基本規程」(昭和二四年一一月一八日総裁達四六六号)三条、五条(現「鉄道公安職員基本規程(管理規程)」(昭和三九年四月一日総裁達一六〇号)二条、四条)に定める鉄道公安職員の鉄道施設警備等の職務は、公務執行妨害罪における公務にあたる。 五 A労働組合員らの本件てこ扱所二階の信号所への立入り、同所に通ずる階段へのすわり込み(判文参照)は、鉄道営業法三七条、四二条一項三号にいう公衆が鉄道地内にみだりに立ち入つた場合にあたる。 六 鉄道公安職員は、本件てこ扱所二階の信号所に立ち入り、同所に通ずる階段にすわり込んだA労働組合員らを鉄道営業法四二条一項により退去させるにあたつては、必要最少限度の強制力の行使として、自発的な退去を促したのに、これに応じないで階段の手すりにしがみつき、あるいはたがいに腕を組む等をして居すわつている者に対し、手や腕を取つてこれをほどき、身体に手をかけて引き、あるいは押し、必要な場合にはこれをかかえ上げる等して階段から引きおろし、退去の実効を収めるために必要な限度で階段下から適当な場所まで腕をとつて進行する等の行為をもなしうるものであり、このような行為が必要最少限度のものかどうかは、労働組合員らの抵抗の状況等の具体的事情を考慮して決定すべきものである。
一、勤労者の争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について違法性阻却事由の有無を判断する一般的基準 二、A労働組合員らの争議行為の際における信号所侵入行為が刑法上の違法性を欠くものでなくその刑事責任を問うことが憲法二八条に違反しないとされた事例 三、鉄道営業法四二条一項により鉄道係員が旅客公衆を車外または鉄道地外に退去させるにあたり必要最少限度の強制力を用いることの可否と憲法三一条 四、旧「鉄道公安職員基本規程」(昭和二四年一一月一八日総裁達四六六号)三条、五条(現「鉄道公安職員基本規程(管理規程)」(昭和三九年四月一日総裁達一六〇号)二条、四条)に定める鉄道公安職員の鉄道施設警備等の職務と公務執行妨害罪における公務 五、A労働組合員らの争議行為の際におけるてこ扱所二階の信号所への立入り、同所に通ずる階段へのすわり込みが鉄道営業法三七条、四二条一項三号にいう公衆がみだりに鉄道地内に立ち入つた場合にあたるとされた事例 六、鉄道公安職員がてこ扱所二階の信号所に立ち入り同所に通ずる階段にすわり込んだA労働組合員らを鉄道営業法四二条一項により退去させる場合に許される強制力行使の程度
刑法35条,刑法95条1項,刑法130条,憲法28条,憲法31条,鉄道営業法37条,鉄道営業法42条1項,日本国有鉄道法32条1項,日本国有鉄道法34条1項,旧鉄道公安職員基本規程(昭和24年11月18日総裁達466号)3条,旧鉄道公安職員基本規程(昭和24年11月18日総裁達466号)5条,鉄道公安職員基本規程(管理規程)(昭和39年4月1日総裁達160号)2条,鉄道公安職員基本規程(管理規程)(昭和39年4月1日総裁達160号)4条
事件番号: 昭和45(あ)2199 / 裁判年月日: 昭和53年3月3日 / 結論: 破棄自判
公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為として行われた本件威力業務妨害及び不退去行為は、刑法上の違法性を欠くものではない。
判旨
鉄道営業法42条1項に基づく退去強制は、合理的な必要性がある場合に必要最小限度の強制力の行使を包含し、これに従事する鉄道公安職員の行為は公務執行妨害罪の客体たる適法な公務にあたる。また、争議行為に際して行われた建造物侵入等の行為の違法性は、法秩序全体の見地から許容されるか否かにより判断される。
問題の所在(論点)
1. 争議行為の一環として行われた信号所への立ち入り行為に、刑法上の建造物侵入罪(130条前段)が成立するか。2. 鉄道営業法42条1項に基づく「退去」権限に直接の実力行使(即時強制)が含まれるか。3. 鉄道公安職員による排除行為が「職務の執行」(刑法95条1項)として適法か。
規範
1. 建造物侵入罪の違法性阻却:争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為の違法性は、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かにより判定する。2. 鉄道営業法42条1項に基づく強制力:鉄道事業の公共性・安全確保の目的から、自発的な退去に応じない場合や危険が切迫する等の事情があるときは、鉄道係員は具体的状況に応じて必要最小限度の強制力を用いうる。3. 公務執行妨害罪:鉄道公安職員が施設警備や秩序維持の職務に従事することは、公務執行妨害罪の客体たる公務にあたり、上記退去強制の権限行使が具体的状況に照らし必要最小限度の範囲内であれば適法な公務執行となる。
重要事実
国鉄(当時)の労働組合員である被告人らは、年度末手当要求闘争に際し、列車の安全運行に不可欠な信号所(係員以外の立入禁止場所)に侵入し、管理者の警告を無視して職場集会への参加を勧誘・説得し、あるいは多数の組合員による信号所占拠・すわり込みに加わった。鉄道公安職員らが鉄道営業法に基づき、再三の退去要求に応じない組合員らを排除するため、腕を解く、身体を抱え上げる等の実力行使による排除を開始したところ、被告人らはバケツで水を浴びせかけるなどの行為に及んだ。第一審は有罪としたが、原審は刑事免責等を理由に無罪としたため検察官が上告した。
あてはめ
1. 被告人らの行為は、列車の安全運行に極めて重要な施設である信号所を占拠し、駅長の管理を事実上排除したものである。職場集会への参加勧誘という目的や、管理者の禁止を無視した侵入の態様に照らせば、法秩序全体の見地から許容される範囲を逸脱しており、刑法上の違法性を欠くとはいえない。2. 鉄道営業法42条1項は、鉄道事業の公共性・安全確保のため、直接排除の権限を付与したものである。警察官の出動を待つ余裕がない場合等、必要最小限度の強制力行使は同条項に包含され、憲法31条にも反しない。3. 本件では、再三の退去勧告を無視して重要施設を占拠・抵抗する組合員らに対し、手や腕を引く等の行為は必要最小限度の範囲内にあると認められる余地があり、適法な公務執行にあたりうる。
結論
被告人らの信号所立ち入りについて建造物侵入罪の成立を認め、鉄道公安職員に対する投水行為について公務執行妨害罪の成否を再審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
争議行為と刑事免責の限界、および行政法規(鉄道営業法)に基づく即時強制の許容性と「職務の適法性」の判断枠組みを示す重要判例である。特に、私人(私鉄係員)にも準用される条文における実力行使の限度、および国鉄職員(鉄道公安職員)の職務の公務性を論じる際の準拠となる。
事件番号: 昭和46(あ)1257 / 裁判年月日: 昭和50年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公共企業体等労働関係法17条1項に違反する争議行為であっても、直ちに正当性が否定されるわけではなく、労働組合法1条2項の刑事免責の適用があり得る。ただし、組織統制力の行使として許容される限界を超える有形力の行使を伴う場合は、違法不当なものとして刑事免責の対象とならない。 第1 事案の概要:郵政職員…