一 国鉄連絡船の乗務船員でない国鉄労働組合員が同船に乗り込んだことが、同組合の団体行動として同船の航行中に勤務当直者でない乗務船員たる組合員らに対するオルグ活動をするためであるとしても、船長が退去を命令したときは、これに従うことを要し、これに従わないで船内に滞留することは、労働組合法一条二項にいう正当な行為とはいえず、艦船不退去罪を構成する。 二 本件国鉄労働争議における判示のような事実関係のもとでの被告人らの信号扱所侵入行為(判文参照)は、組合員多数の勢力をもつてする実力行動により信号扱所に対する国鉄当局側の管理を排除して侵入したものであつて、被告人らの信号扱所への立入りが、同所に勤務する組合員に職場大会への参加を呼びかける目的に出たもので、組合員の原判示時限ストを実行するためになされたものであるとしても、これをもつて直ちに労働組合法一条二項にいう正当な行為とはいえず、建造物侵入罪を構成する。
一 国鉄連絡船の乗務船員でない国鉄労働組合員が航行中の同船内において勤務当直者でない乗務船員に対してオルグ活動をしようとして乗船した場合と船長の退去命令 二 国鉄労働争議における国鉄労働組合員の信号扱所侵入行為が正当性を欠き建造物侵入罪を構成するとされた事例
刑法130条,船員法7条,公共企業体等労働関係法3条1項,公共企業体等労働関係法17条1項,労働組合法1条2項,憲法28条
判旨
労働組合の団体行動であっても、船舶という特殊な場所において船長の退去命令に従わず滞留する行為や、多人数による実力行使を伴う建造物侵入は、基本的人権との調和を欠くため正当な行為として免責されず、艦船不退去罪及び建造物侵入罪が成立する。
問題の所在(論点)
労働組合員によるオルグ活動や職場大会への呼びかけを目的とした「艦船への居座り」及び「実力行使を伴う信号扱所への立ち入り」が、憲法28条及び労組法1条2項により刑事免責される「正当な行為」といえるか。
規範
憲法28条が保障する団体行動権は無制限ではなく、他の基本的人権との調和を要する。労働組合の目的達成のためにされる行為であっても、その手段や態様が社会通念上許容される範囲を超え、他人の権利を不当に侵害する場合には、労働組合法1条2項による刑事免責は受けられない。特に、船舶における船長の命令は航行の安全確保という重要な公的利益に基づくものであり、これを著しく阻害する行為は正当性を欠く。また、多人数による実力行使をもって管理者の占有を排除する行為も同様である。
重要事実
日本国有鉄道の労働組合員である被告人Aらは、定員削減案に反対するオルグ活動等のため、出航間際の連絡船に乗り込み、船長からの退去命令を拒否して出航を遅延させた(艦船不退去)。また、被告人A・Dらは、駅構内の信号扱所周辺に配置された警備員等に対し、組合員約200〜250名でスクラムを組み、もみ合い等の実力行使を行って当局の管理を排除し、信号扱所内に侵入した(建造物侵入)。
あてはめ
艦船不退去について、船舶の航行の安全は乗員・乗客の生命身体に関わるため、船長には船員法7条に基づく強力な指揮権が認められる。組合活動目的であっても、船長の退去命令を無視して船内に滞留することは、航行の指揮を妨げ安全を脅かすものであり、社会的に許容される正当な範囲を逸脱する。建造物侵入についても、たとえ組合員への呼びかけが目的であっても、多数の勢力をもって実力で当局の管理を排除し侵入する態様は、平穏な管理権を侵害するものであり、団体行動権の保障の範疇を超えている。
結論
被告人らの行為は正当な団体行動とは認められず、刑法上の艦船不退去罪および建造物侵入罪が成立する。
実務上の射程
争議行為の正当性(刑事免責)を論じる際のリーディングケースである。特に「場所的・態様的限界」を判断する際、当該場所の特殊性(船舶の安全)や手段の相当性(実力行使の有無)を考慮要素とする現在の実務慣行の基礎となっている。答案上は、全農林警職法事件判決等の公務員に関する法理とは区別し、一般労働者の団体行動の限界を示す規範として引用すべきである。
事件番号: 昭和40(あ)2067 / 裁判年月日: 昭和41年6月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為としての適法性の限界を超えた違法な行為については、憲法28条による保障の対象外となり、刑事上の罪責を免れない。 第1 事案の概要:被告人らの行動が争議行為の一環として行われたが、その具体的な態様が問題となった事案。原審は、被告人らの行動をもって適法性の限界を超えた違法行為と判断し、有罪判決…
事件番号: 昭和43(あ)837 / 裁判年月日: 昭和48年4月25日 / 結論: 破棄差戻
一 勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、その行為が争議行為に際し行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定し…
事件番号: 昭和28(あ)56 / 裁判年月日: 昭和31年10月24日 / 結論: その他
某会社がその従業員一三名に対し解雇通知および同会社への立入禁止の通告をしたのに対し、同会社労働組合側では右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては法定の手続によつて救済を求むべく事後の対策を協議中にもかかわらず、右解雇および立入禁止の通告を受けた二名およびこれを関知した同会社従業員でもなく同会社労働組合員でもない一…