一 上告審が、第一審判決を破棄した控訴審判決を破棄して第一審判決を維持するのを相当と認めるときは、第一審判決と同一内容の主文を表示するかわりに、控訴を棄却する旨の主文を表示してもよい。 二 関税法一一一条一項所定の無許可輸出罪と同法一一三条の二所定の虚偽申告罪とは併合罪の関係にある。 三 関税法の無許可輸出罪の公訴事実中に、税関吏に対し実際に輸出しようとする薬品の輸出申告をしないで他の薬品の輸出申告をした旨の記載があるが、罪名は単に関税法違反と記載され、罰条として、関税法一一一条一項のみが示されているにすぎない場合には、同法上の虚偽申告の点は起訴されなかったとみるのが相当である。 四 当初の無許可輸出罪の訴因につき第一審で無罪とされ、検察官が控訴したが、控訴審でも罪とならないとされ、ただ、外国為替及び外国貿易管理法の無承認輸出罪の成立する余地があるとして破棄差し戻した判決に対し被告人のみが上告した場合には、上告審が職権調査により右訴因を有罪とすべきものとして破棄差し戻し、または、みずから有罪の裁判をすることは許されない。
一 上告審判決の主文に控訴棄却の旨を表示することの可否 二 関税法一一一条一項所定の無許可輸出罪と同法一一三条の二所定の虚偽申告罪との罪数関係 三 関税法の無許可輸出罪の公訴事実中に税関吏に対し虚偽の申告をした旨の記載があるが同法の虚偽申告罪の起訴はなかつたものとみるのが相当であるとされた事例 四 当初の関税法の無許可輸出罪の訴因につき第一審で無罪とされ検察官が控訴したが控訴審でも罪とならないとされただ外国為替及び外国貿易管理法の無承認輸出罪の成立する余地があるとして破棄差し戻した判決に対し被告人のみが上告した場合と上告審の職権調査の範囲
刑訴法396条,刑訴法413条,刑訴法256条2項,刑訴法378条3号,刑訴法392条2項,刑訴法414条,関税法111条1項,関税法113条の2,刑法45条,刑法54条
判旨
裁判所は、起訴状記載の訴因が実体にそぐわない場合であっても、原則として検察官に訴因変更を促すべき義務を負わない。また、起訴されていない罪名(併合罪の関係にある別罪)の成否について、検察官の追起訴や訴因変更がない限り審判することはできない。
問題の所在(論点)
裁判所が、起訴された罪名とは異なる犯罪が成立する可能性を認めた場合、検察官に訴因変更を促すべき義務(訴因変更義務・釈明義務)を負うか。また、起訴されていない併合罪の関係にある他罪について、訴因変更なしに審理不尽の違法を問えるか。
規範
1. 裁判所は、訴因が実体と異なると考えられる場合であっても、原則として検察官に対して訴因変更を釈明し、または促すべき義務を負わない。 2. 併合罪の関係にある複数の罪について、一部の罪のみが起訴されている場合、検察官による訴因変更手続や追起訴がなされない限り、裁判所は起訴されていない他罪について審判することはできない。
事件番号: 昭和44(あ)2357 / 裁判年月日: 昭和45年10月22日 / 結論: 棄却
輸出貨物代金前受証明書あるいは外貨交換済証明書を他から買い受けて、外国為替銀行の認証を受け、標準決済方法による輸出であるように装い、税関長に対し、右認証書を付し輸出申告をしてその許可を受けたうえ、貨物を輸出した場合は、右輸出許可が無効なものとはいえず、無許可輸出罪は成立しない。
重要事実
被告人Cは、虚偽の薬品名で輸出申告を行い、実際の貨物とは異なる品目の輸出免許を受けて輸出したとして、関税法違反(無許可輸出罪等)で起訴された。第一審は、一部を無許可輸出罪として有罪としたが、残りの多くについて「偽装が施されていない場合は無免許・無許可輸出罪は成立しない」との法令解釈に基づき無罪とした。これに対し原審(控訴審)は、一審の解釈を維持しつつも、無罪部分について「虚偽申告罪や外為法違反(無承認輸出罪)が成立する可能性があるため、一審は検察官に訴因変更を促すべきであった」として、審理不尽を理由に一審判決を破棄し、差し戻した。被告人がこれに不服を申し立て上告した。
あてはめ
まず、関税法上の無許可輸出罪と虚偽申告罪は併合罪の関係にある。本件起訴状には虚偽申告の事実は記載されていたが、罰条として虚偽申告罪は示されておらず、当該罪は起訴されていないとみるべきである。したがって、検察官の追起訴等がない限り審判できないため、一審に審理不尽はない。次に、無承認輸出罪への変更についても、訴因変更命令や釈明は裁判所の義務ではない(G事件大法廷決定参照)。原審が裁判所の釈明義務を前提に一審の審理不尽を認めたのは、法令の解釈を誤ったものであるといえる。なお、一審が無罪とした無許可輸出罪の成否について、一審の解釈は本来誤りであるが、検察官が上告していない本件の訴訟構造上、上告審が職権で有罪方向に破棄することは許されない。
結論
原審が裁判所に訴因変更を促すべき義務があるとしたのは法令の解釈誤りである。原判決を破棄し、検察官・被告人双方の控訴を棄却すべき(一審判決の維持)。
実務上の射程
訴因変更命令の義務性を否定した基本的判例。裁判所の釈明義務が「原則として」否定されることを示しており、答案上は、当事者主義的訴訟構造における裁判所の役割を論じる際の根拠として用いる。また、併合罪関係にある他罪への認定が訴因変更なしには不可能である点も重要である。
事件番号: 昭和27(あ)6853 / 裁判年月日: 昭和29年4月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状に記載された表現が一定の趣旨であると合理的に解釈できる場合、その解釈に従って認定された事実は、訴因以外の事実について審理したものとはいえない。 第1 事案の概要:被告人が関税法違反等で起訴された際、起訴状には「右物品を陸揚と共に税関の免許を受けないで神戸市内に搬入し」との記載があった。第一審…
事件番号: 昭和44(あ)2749 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政行為に重大かつ明白な瑕疵がない限り、虚偽の手段によって得られた許可であっても有効であり、その許可に基づく行為に無許可罪は成立しない。 第1 事案の概要:被告人は、実際には標準外決済方法による輸出であるにもかかわらず、他人名義の輸出申告書等を買い受け、標準決済方法による輸出であると装って税関長に…
事件番号: 昭和28(あ)383 / 裁判年月日: 昭和30年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成を備えた裁判所を指し、個々の事件における事実認定の当否自体を指すものではない。 第1 事案の概要:被告人が、原審(控訴審)において第一審判決が維持されたことに対し、原審は予断を抱いて安易に控訴を棄却したものであり、公…