一 公職選挙法第二二一条第一項第一号の供与等いわゆる買収を目的とする金銭又は物品を交付し、又はその交付を受ける行為は、右買収を共謀した者相互の間で行なわれた場合でも、同条項第五号の交付又は受交付の罪を構成するのに妨げない 二 前項の場合において、共謀にかかる供与等が行なわれたときは、交付又は受交付の罪は、後の供与等の罪に吸収される 三 前二項の場合において、共謀者間で授受された金銭又は物品の一部について供与等が行なわれ、その残部が受交付者の手裡に保留されたときは、前者についての供与等の罪と後者についての交付又は受交付の罪との併合罪として処断すべきである 四 第一審以来の審理において、金員の授受およびこれに関連する一連の事実関係が十分明らかにされ、被告人の防禦にも支障はなかつたものと認められる本件の場合、原審が、事件を第一審に差し戻すことなく、右予備的訴因に基づいて自ら判決をした措置は、被告人Aに対して審級の利益をはく奪したものとはいえない 五 被告人Aが被告人Bに対して現金三万円を交付したとする本位的訴因と、被告人Aが被告人Bとの共謀のうえ、右現金三万円中合計二万七、〇〇〇円をCらに対してそれぞれ供与もしくはその申込をし、又は交付したとする予備的訴因との間には、公訴事実の同一性が認められるから、右予備的訴因の追加を許可した原審の措置に違法の点はない
一 公職選挙法第二一一条第一項第一号の供与等を共謀した者の間における金銭又は物品の授受と同条項第五号の交付又は受交付の罪の成否 二 右共謀にかかる供与等が行なわれた場合における供与等の罪と交付又は受交付の罪との関係 三 前記共謀にかかる供与等が共謀者間で授受された金銭又は物品の一部について行なわれた場合における供与等の罪と交付又は受交付の罪との関係 四 二審が一審判決を破棄するにさいし二審で追加された予備的訴因に基づいて自判することと審級の利益 五 甲が乙に三万円を交付したとする訴因と甲乙共謀のうえ右三万円中二万七、〇〇〇円について丙らに供与等をしたとする訴因との間の公訴事実の同一性。
公職選挙法221条1項1号,公職選挙法221条1項5号,刑法60条,刑法45条,刑訴法400条,刑訴法312条
判旨
買収を共謀した者相互間における買収資金の授受であっても、公職選挙法221条1項5号の交付罪および受交付罪が成立し、その後に実際の買収行為が行われた場合には交付・受交付罪は買収罪に吸収されるが、行われなかった残余の部分については独立して交付・受交付罪が成立する。
問題の所在(論点)
買収を共謀した者の間で行われた資金の授受について、公職選挙法221条1項5号の交付罪・受交付罪が成立するか。また、その後に一部の資金で実際の買収が行われた場合の罪数関係はどうなるか。
規範
公職選挙法221条1項5号が交付・受交付罪を規定したのは、買収資金の交付等それ自体が選挙腐敗の根源をなすため、買収の前段階で独立して処罰し、不正を未然に防止する点にある。したがって、買収を共謀した者同士の内部的・準備的行為であっても同罪の成立は妨げられない。もっとも、交付後に共謀に係る買収行為が実行された場合、既遂となった交付・受交付罪は後の買収罪(供与罪等)に吸収されるが、買収に使用されず受交付者の手元に留まった部分については、吸収されず独立して罪を構成し、後の買収罪と併合罪の関係に立つ。
重要事実
被告人A、B、Dの3名は、選挙人等に対して金銭を供与することを共謀した。Aは、買収資金としてBに現金3万円を交付し、Bはそのうち1万3,000円をさらにDに交付した。BおよびDは、受け取った金銭の一部を実際に選挙人らに供与(またはその申込)したが、Bの手元には3,000円、Dの手元には1万3,000円が、実際の買収に使用されないまま保留されていた。
あてはめ
買収資金の交付は選挙腐敗の根源であり、共謀者間の移動であっても、その時点で交付罪等の構成要件を充足する。本件において、AからBへの3万円、BからDへの1万3,000円の授受は、買収を目的とする資金の移動として交付・受交付罪に該当する。もっとも、交付された資金のうち、実際に選挙人らへの供与等に用いられた2万7,000円分については、後生した供与罪等に吸収される。しかし、BおよびDの手元に保留された残余の3,000円および1万3,000円分については、吸収の基礎となる供与行為が存在しないため、交付・受交付罪が独立して成立し、供与罪等との併合罪となる。
結論
共謀者間の資金授受にも交付罪・受交付罪は成立する。買収が行われなかった保留分については、独立して交付・受交付罪が成立し、既遂となった買収罪と併合罪になる。
実務上の射程
選挙犯罪における予備的段階の処罰を肯定する射程の長い判例である。答案上は、買収罪の共犯関係が成立する場合であっても、資金移動の段階で別個の構成要件(交付・受交付)の成否を検討すべきこと、および「実際に買収に使われたか否か」で罪数(吸収か併合罪か)を分けるべきことを論述する際に用いる。
事件番号: 昭和61(あ)160 / 裁判年月日: 昭和61年7月17日 / 結論: 棄却
選挙運動者に対する金銭供与の共謀者間において供与の実行前にあらかじめされていた供与資金交付の約束が供与の実行直後に履行された場合にも、交付の罪は供与の罪に吸収される。