選挙運動者に対する金銭供与の共謀者間において供与の実行前にあらかじめされていた供与資金交付の約束が供与の実行直後に履行された場合にも、交付の罪は供与の罪に吸収される。
選挙運動者に対する金銭供与の共謀者間における供与資金の交付約束が供与の実行直後に履行された場合の供与の罪と交付の罪との関係
公職選挙法221条1項1号,公職選挙法221条1項5号,刑法45条
判旨
公職選挙法上の買収において、共謀者間で資金の交付が約束され、共謀に基づく供与が先行して行われた直後に、当初の約束どおり資金が交付された場合、交付の罪は供与の罪に吸収される。
問題の所在(論点)
買収の共謀に基づき、共謀者の一方が自己資金を立て替えて先に供与を行った後、他方の共謀者が当初の約束に基づき買収資金を交付した場合、交付の罪と供与の罪は併合罪となるか、あるいは吸収関係(一罪)となるか。
規範
買収資金の供与を目的としてあらかじめ共謀者間で金員の交付が行われ、その後に共謀にかかる供与が行われた場合、交付の罪は後の供与の罪に吸収される(最判昭41.7.13参照)。この理は、供与の共謀者間で手段として資金交付が約束され、実際には供与が先行した後に交付約束が履行されたにすぎない場合であっても、実質的な差がないため同様に妥当し、交付の罪は供与の罪に吸収される。
重要事実
被告人及びAは共謀の上、選挙運動の報酬としてBらに対し10万円を供与する旨を約した。被告人はAに10万円を交付する約束をしていたが、Aは被告人から連絡がなかったため、約束を守るべく自己資金10万円を立て替えて先にBらに供与した(供与の罪)。被告人はその翌日、本来の約束どおりAに10万円を交付した(交付の罪)。
あてはめ
被告人とAの間では、供与の手段として買収資金の交付が事前に約束されていた。Aによる供与が被告人による交付より先に行われたのは、被告人からの連絡が遅れたことによる一時的な立替えという偶然の事情によるものである。したがって、供与の後に交付が行われた本件の状況は、交付が先行する場合(最判昭41.7.13)と実質的な差異は認められない。そのため、後に行われた被告人からAへの資金交付は、一連の買収計画の一部として行われた手段的行為といえる。
結論
被告人のAに対する交付の罪は、被告人とAが共謀して行ったBらに対する供与の罪に吸収され、一罪を構成する。したがって、両罪を併合罪とした原判決には法令適用の誤りがある(ただし、処断刑に影響しないため上告棄却)。
実務上の射程
公職選挙法違反の罪数関係に関する判例である。原則として「交付」と「供与」は別罪を構成し得るが、本判決は共謀に基づく一連の買収行為において、時系列が前後(供与が先、交付が後)しても、それが当初の共謀の範囲内であれば吸収関係になることを認めた。答案上は、数個の買収行為が密接に関連し、一連の計画に基づくものである場合に、一罪として処理する際の論理として活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)1816 / 裁判年月日: 昭和30年12月13日 / 結論: 棄却
投票買収のため金員の交付を受けた選挙運動者が、さらにその金員の一部を選挙運動者または選挙人に供与したときは、その部分については前の交付を受けた所為は後の供与の所為に吸収されて供与罪のみが成立するが、その供与をしなかつた部分については前の受交付罪が成立する。