一 公職選挙法に定める金銭供与の罪に関する共同謀議が成立したとするためには、数人の間に一定の選挙に関し一定範囲の選挙人または選挙運動者に対し、投票または投票とりまとめを依頼し、その報酬とする趣旨で金銭を供与するという謀議の成立があれば足り、その供与の相手方となるべき具体的人物、配布金額、金員調達の手段等細部の点まで協議されることを必要とするものではない。 二 被告人が、選挙運動者に対しいわゆる買収資金を交付したとする訴因(以下甲訴因という。)および右選挙運動者と共謀のうえ第三者に右資金の一部を供与または交付したとする訴因(以下乙訴因という。)につき併合審理され、甲訴因につき有罪、乙訴因につき無罪の判決を受けた場合において、無罪部分につき検察官の上訴がなくすでに確定しているときは、上訴審において、甲乙両訴因に含まれる事実関係が認められる以上、甲訴因の罪のうち右の供与等がなされた資金に関する部分は、すでに無罪判決の確定した乙訴因の罪に吸収される関係にあり、右部分については、もはや被告人に対し交付罪としての罪責を問うこともできない。
一 公職選挙法に定める金銭供与の罪に関する共同謀議 二 右の共謀者間において交付された金銭の一部につき共謀に基づく供与等のなされたことが認められる場合において、すでに交付者に対し右供与等の罪につき無罪判決が確定しているときと交付罪の成否
公職選挙法221条1項1号5号,刑法60条
判旨
共謀共同正犯が成立するには、特定の犯罪を共同の意思の下に一体となって互いの行為を利用し各自の意思を実行に移す謀議が必要であるが、細部の点まで協議されることは要しない。また、買収資金の交付罪と後の供与罪が成立する場合、供与等が行われた部分は後の供与罪に吸収され、交付罪としては別に問擬できない。
問題の所在(論点)
1. 共謀共同正犯の成立に、実行行為の細部(相手方・金額等)に関する具体的な協議が必要か。 2. 買収目的の金員交付後に実際の供与が行われた場合、交付罪と供与罪の罪数はどのような関係に立つか。
規範
1. 共謀共同正犯の成否:二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行することを要する。この謀議において、実行者の具体的行為の内容を逐一認識することは要せず、買収の罪であれば、一定の選挙に関し報酬として金銭を供与するという謀議があれば足り、相手方、金額、調達手段等の細部まで協議される必要はない。 2. 罪数(吸収関係):買収目的の金員を交付・受交付する行為(公職選挙法221条1項5号)と、その後の実際の供与行為(同1号)との関係において、実際に供与(またはその申込・約束)が行われた場合には、一旦成立した交付・受交付の罪は、後の供与等の罪に吸収される。交付された金員の一部のみについて供与が行われた場合、その余の部分については交付・受交付の罪が残り、供与罪と併合罪となる。
重要事実
被告人および共犯者Aは、選挙対策について助言を受け、被告人の当選目的で選挙運動資金(買収資金を含む)約300万円を被告人が調達し、その運用はAに一任する旨を相互に認識・協議した。被告人はAに対し、判示第一ないし第三の金員を交付した。その後、Aはその一部を複数の選挙人に対し、買収資金として実際に供与し、また出納責任者予定者に法定選挙費用および買収資金を交付した。原審は、具体的相手方や金額等の細部について謀議がないとして、被告人とAとの共謀を否定し、交付の事実のみについて有罪とした。
あてはめ
1. 被告人とAは、選挙資金約300万円が買収資金を含むものであることを相互に認識し、その運用をAに一任する協議をしていた。これは特定の犯罪(金銭供与罪)を共同の意思で実行する謀議として十分であり、細部の協議を欠いても共謀の成立を認めることができる。 2. Aが被告人から交付を受けた金員のうち、実際に第三者に供与した部分(本件ではCらへの計83万円、Gらへの計7万円、Iへの40万円等)については、仮に共謀が認められるならば、その罪責は後の供与罪(または次の交付罪)に吸収される。したがって、これらの部分について独立して交付罪を問擬することはできず、交付罪のみを認めて有罪とした原判決には法令解釈の誤りがある。
結論
被告人とAの間には公職選挙法違反の共謀が成立する。また、共謀に基づく供与が行われた部分については、交付罪は供与罪に吸収されるため、交付罪のみを認定した原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
共謀の主観的要件において「一任」や「概括的な認識」があれば細部の合意は不要とする実務上重要な判断である。また、買収事案における予備的段階(交付)と実行段階(供与)の罪数関係を整理したもので、一部が供与された場合の残り(手裡に保留された部分)の処理についても指針を示している。
事件番号: 昭和28(あ)5374 / 裁判年月日: 昭和29年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀者間での金員授受であっても、それが単なる内部的な準備行動にとどまらない場合には、公職選挙法221条1項所定の買収罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人AおよびBは共謀関係にあったところ、両者の間で選挙に関連して金員の授受が行われた。弁護人は、この授受は共謀者内部の準備的行動にすぎないとして、…