選挙に関し買収を共謀した者相互間で買収を目的とする金員の交付、受交付が行なわれた場合において、供与に使用された交付金の残金が受交付者の手もとで他の金員と混同を生じたのち、供与に使用されたとしても、右の混同のため右残金からだれに、いつ、いくらずつ供与されたか供与罪として特定できないときは、右残金については、供与罪に吸収されることなく、交付罪を構成する。
選挙に関し買収を共謀した者相互間の授受金員が他の金員と混同した場合における交付罪の成否
公職選挙法221条1項1号,公職選挙法221条1項5号,刑法60条
判旨
投票買収における交付金の一部が受交付者の手元で他の金員と混同され、その後に供与に使用された場合であっても、供与罪として特定できないときは交付罪が吸収されずに成立する。
問題の所在(論点)
公職選挙法上の買収交付罪において、交付された金員が受交付者の手元で他人の金員と混同され、その後の供与罪の事実を特定できない場合、交付罪は供与罪に吸収されるか、あるいは独立して成立するか。
規範
買収を共謀した者相互間で買収目的の金員の交付・受交付が行われた場合、原則として交付罪は供与罪に吸収される。しかし、供与に使用された交付金の残金が受交付者の手元で他の金員と混同を生じた後、供与に使用されたとしても、当該混同のために右残金から「誰に、いつ、いくらずつ供与されたか」を供与罪として特定できないときは、右残金については供与罪に吸収されることなく、独立して交付罪を構成する。
重要事実
被告人はAと投票買収を共謀し、Aに対し3回にわたって計105万8000円の交付金を渡した。Aはこれを受領したが、その手元で他の金員と混同が生じた。その後、Aは残金を供与に使用した事実は認められたものの、具体的にどの金員が誰に、いつ、いくらずつ供与されたかを特定することが困難な状況であった。弁護側は、残金が最終的に供与に使用された以上、交付罪は供与罪に吸収されるべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件では、Aに交付された金員が他の金員と混同されており、その後の供与行為との一対一の対応関係が不明確になっている。判例の一般原則によれば、供与がなされれば交付は吸収されるが、本件のように混同が生じた結果、供与罪としての具体的構成要件(いつ・誰に・いくら)を特定できない場合には、吸収関係を認める前提を欠く。したがって、当該残金については交付の段階で成立した交付罪がそのまま維持されると解すべきである。
結論
混同により供与罪の特定が困難な場合には、供与罪への吸収は認められず、交付の罪が独立して成立する。
実務上の射程
選挙買収事案における交付罪と供与罪の罪数関係に関する射程を示すものである。実務上、買収資金の「流れ」が混同等により追跡不能となった場合でも、交付段階の事実が立証できれば交付罪で処罰可能であることを理論づけており、起訴の可否や罪数処理を検討する際の判断基準となる。
事件番号: 昭和40(あ)1541 / 裁判年月日: 昭和41年7月13日 / 結論: 棄却
一 公職選挙法第二二一条第一項第一号の供与等いわゆる買収を目的とする金銭又は物品を交付し、又はその交付を受ける行為は、右買収を共謀した者相互の間で行なわれた場合でも、同条項第五号の交付又は受交付の罪を構成するのに妨げない 二 前項の場合において、共謀にかかる供与等が行なわれたときは、交付又は受交付の罪は、後の供与等の罪…