一 刑法第二五八条にいう「公務所ノ用ニ供スル文書」とは、公務所において現に使用し又は使用に供する目的で保管している文書を総称しその文書が証明の用に供せられるべき性質を有することを要するものではない。 二 日本国有鉄道の駅職員が列車の遅延、運転中止を告げ、これを詫びる旨白墨で記載して駅待合室に提示した急告板を勝手に取りはずし、その記載文言を抹消する行為は、公文書毀棄罪を構成する。
一 刑法第二五八条にいう「公務所ノ用ニ供スル文書」の意義 二 公文書毀棄罪にあたるとされた事例
刑法258条
判旨
刑法258条にいう「公務所ノ用ニ供スル文書」とは、作成者や目的を問わず、現に公務所において使用に供され、または使用目的で保管されている文書を指し、証明の用に供されるものに限定されない。
問題の所在(論点)
刑法258条の公用文書毀棄罪の客体である「公務所ノ用ニ供スル文書」に該当するためには、その文書が「証明の用に供せられるべき文書」であることを要するか。
規範
刑法258条の「公務所ノ用ニ供スル文書」とは、その作成者、作成の目的等にかかわりなく、現に公務所において使用に供せられ、又は使用の目的をもつて保管されている文書を総称する。したがって、当該文書が「証明の用に供せられるべき文書」であるか否かを問わず、公用文書毀棄罪の客体となりうる。
重要事実
国鉄(当時)の駅助役らが、労働組合の闘争による列車遅延につき、旅客への報道および陳謝を目的として、急告板に白墨でその旨を記載して駅待合室に掲示していた。被告人は、当該急告板を勝手に取り外して通路に持ち出し、黒板拭きを用いて記載文言をすべて抹消した。原審は、当該文書が証明の用に供されるものではないとして、公用文書毀棄罪ではなく器物毀棄罪の成立を認めた。
事件番号: 昭和51(あ)1202 / 裁判年月日: 昭和52年7月14日 / 結論: 破棄自判
公務員が公務所の作用として職務権限に基づいて作成中の文書は、それが文書としての意味、内容を備えるに至つた以上、刑法二五八条にいう「公務所ノ用ニ供スル文書」にあたる。
あてはめ
本件の急告板は、公務所である日本国有鉄道において、旅客への連絡・謝罪という公務遂行の目的で現に使用されていたものである。同条の客体は、公務所において現に使用・保管されていれば足り、特定の事実を証明する機能を持つ必要はない。したがって、たとえ旅客に対する報道や陳謝という内容であっても、公務所がその目的のために掲示している以上、公用文書に該当すると解される。これを抹消した被告人の行為は、公用文書毀棄罪の構成要件を充足する。
結論
刑法258条の文書は証明用であることを要しない。本件急告板の文言抹消には公用文書毀棄罪が成立する。
実務上の射程
公用文書毀棄罪の客体を広範に認めた判例である。答案上は、文書の定義(文字・符号による思想の表現、継続性等)を満たすことを前提に、その「公用性」について、証明機能の有無にかかわらず「現に公務所が使用・保管しているか」という実態面から判断する規範として活用する。
事件番号: 昭和29(あ)1287 / 裁判年月日: 昭和29年7月14日 / 結論: 棄却
所論告訴状名義者はいずれも本件器物の管理者であつて、告訴権を有するものであることは裁判所会計事務に関する規定上明らかである。
事件番号: 昭和42(あ)2694 / 裁判年月日: 昭和43年5月15日 / 結論: 棄却
司法警察員が被疑者の供述を録取した調書は、いまだ被疑者および司法警察員の署名押印がなくても、刑法第二五八条にいう公務所の用に供する文書にあたるものと解すべきである。