違法な取調のもとに作成されつつあつた供述録取書であつても、既に文書としての意味、内容を備えるに至つているものであるときは、刑法二五八条にいう「公務所ノ用ニ供スル文書」にあたる。
違法な取調のもとで作成中の供述録取書と刑法二五八条にいう「公務所ノ用ニ供スル文書」
刑法258条,刑訴法198条,刑訴法223条
判旨
供述録取書の作成過程が違法であっても、それが文書としての意味内容を備えるに至っている以上、将来適法に使用される可能性があり、公務所が保管すべきものであるため、刑法258条の公文書に該当する。
問題の所在(論点)
作成過程に重大な違法がある供述録取書が、刑法258条(公用文書等毀棄罪)にいう「公務所の用に供する文書」に該当するか。
規範
刑法258条にいう「公務所の用に供する文書」とは、公務所において現に使用し、又は使用に供する目的で保管している文書を総称する。たとえ当該文書を完成させるために用いられた手段方法が違法であっても、既にそれが文書としての意味・内容を備えるに至っているならば、将来これを公務所において適法に使用することが予想されなくはなく、そのような場合に備えて公務所が保管すべきものであるといえるから、同条の文書に該当する。
重要事実
窃盗被疑事件の参考人として警察官から取調べを受けていた被告人が、その取調の過程において、作成されつつあった自己の参考人供述録取書を引き裂いた。当該取調べは、事実上身体の自由を拘束し、実質的に逮捕と同視しうる状態で、違法かつ執拗に行われていた。原審は、作成過程の違法性を理由に、当該録取書は刑法上の保護に値せず、公用文書に当たらないとして無罪を言い渡した。
事件番号: 昭和42(あ)2694 / 裁判年月日: 昭和43年5月15日 / 結論: 棄却
司法警察員が被疑者の供述を録取した調書は、いまだ被疑者および司法警察員の署名押印がなくても、刑法第二五八条にいう公務所の用に供する文書にあたるものと解すべきである。
あてはめ
本件供述録取書は、作成過程において違法な取調べが行われていたとしても、現に警察官によって作成され、文書としての意味・内容を備えるに至っている。このような文書は、将来的に証拠や資料として適法に使用される可能性が完全に否定されるものではなく、公務所(警察)が保管すべき性質を有していると解される。したがって、その作成過程が「たまたま違法とされるもの」であったとしても、公用文書としての客体性を失うものではない。
結論
被告人の行為は、作成過程の違法を問わず、刑法258条の公用文書等毀棄罪を構成する。
実務上の射程
公用文書等毀棄罪の客体について、作成プロセスの適法性と客体性は切り離して考えるべきであることを示した。答案上は、証拠能力が否定される可能性のある書類であっても、公務所が公務遂行のために現に管理・保管している実態があれば本罪の保護対象となる、と論述する際に用いる。
事件番号: 昭和29(あ)2424 / 裁判年月日: 昭和32年1月29日 / 結論: 棄却
司法警察員が刑訴二〇三条に基き被疑者に対し被疑事実の要旨および弁護人を選任し得る旨を告げ、被疑者がこれに対する供述をしたので、その旨を記載した弁解録取書原本を執筆し、これを読み聞かせ誤の有無を問うたところ被疑者が黙秘したため、司法警察員がその旨の文言の一部を末尾に記載した場合においては、いまだ被疑者および司法警察員の署…
事件番号: 昭和51(あ)1202 / 裁判年月日: 昭和52年7月14日 / 結論: 破棄自判
公務員が公務所の作用として職務権限に基づいて作成中の文書は、それが文書としての意味、内容を備えるに至つた以上、刑法二五八条にいう「公務所ノ用ニ供スル文書」にあたる。