一 執行吏が第三者の所有かつ占有にかかる物件を、仮処分決定の被申請人の所有かつ占有にかかるものと判定してした執行についてなされた標示は、右執行が故意に第三者の権利を侵害する目的でされた場合でない限り、その取消がなされるまでは、刑法第九六条の差押の標示というを妨げない。 二 執行吏の遵守すべき手続に違反してなされた仮処分の決定の執行についてなされた標示は、執行の瑕疵が重大かつ明白であつて執行行為そのものが当然無効あるいは不存在と認められる場合でない限り、その取消がなされるまでは、刑法第九六条の差押の標示というを妨げない。
一 第三者の所有かつ占有する者に対する執行と刑法第九六条 二 手続に瑕疵のある執行と刑法第九六条
刑法96条
判旨
仮処分の執行手続が法律上有効である以上、これに対する抵抗行為等は適法な執行を妨げるものとして刑法上の責任を負い得る。
問題の所在(論点)
民事上の仮処分決定に基づく執行手続が、刑法上の保護に値する適法な公務の執行といえるか、またその執行手続に無効事由があるか否かが問題となる。
規範
民事上の仮処分決定に基づく執行手続が、民事執行法等(当時の法制下)の定める要件を充たし法律上有効に行われている場合には、その適法な執行を公務執行妨害罪等の客体となるべき「公務」として保護すべきである。
重要事実
被告人両名は、裁判所によって発せられた本件仮処分の執行手続に対し、憲法違反や事実誤認、法令違反等を主張して抵抗した。弁護人は、本件仮処分の執行手続自体が法律上無効であるため、これに対する行為は犯罪を構成しない旨を主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、原審の判断を引用する形で、本件仮処分の執行手続が法律上有効であると認定した。被告人側が主張する違憲の主張は、違反する憲法条項を明示しない不適法なものであり、また法令違反や事実誤認の主張も刑訴法405条の上告理由に当たらない。したがって、有効な執行手続に対する妨害行為は適法とは認められない。
結論
本件各上告を棄却する。本件仮処分の執行手続は法律上有効であり、これに対する抗弁は認められない。
実務上の射程
本決定は、仮処分執行の有効性を前提に上告を棄却した簡潔な決定である。司法試験等の答案上では、公務執行妨害罪における「職務の適法性」が争点となる際、民事執行手続であっても手続的要件を充たす限り適法な職務執行として保護されることを確認する材料となるが、決定文自体が短いため、具体的な適法性判断の基準については他の重要判例を参照すべきである。
事件番号: 昭和30(あ)3232 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
宅地に対する仮処分命令の被申請人である被告人が、右仮処分の存在を知りながら、仮処分命令の趣旨に反して擅に家屋を建築したとしても、行為当時右差押の標示が現存しない限り、刑法第九六条の「差押の標示」を損壊または無効ならしめたものに該当するものとはいい得ない。
事件番号: 昭和27(あ)4535 / 裁判年月日: 昭和28年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において原審で主張・判断されていない憲法違反等の事項を新たに主張することは、特段の事情がない限り、適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人が憲法31条(適正手続き)の解釈誤りや、大審院判例への違反、審理不尽、さらには憲法35条(住居の不可侵)違反などを理由に上告を申し立てた事案…