「全国区参議院議員候補某選挙対策委員」という肩書を付した名刺は、公職選挙法第一四二条にいう「選挙運動のために使用する文書」にあたる。
名刺が「選挙運動のために使用する文書」にあたる事例。
公職選挙法142条,公職選挙法243条3号
判旨
公職選挙法142条の「頒布」とは、不特定または多数人への配布を指すが、現に配布された者が少数であっても、その者を通じて不特定・多数人へ配布される状況があれば成立する。
問題の所在(論点)
公職選挙法142条1項にいう文書図画の「頒布」の意義、および特定の少数人に対して文書を交付した場合であっても「頒布」に該当するか。
規範
公職選挙法142条が頒布を禁じる文書図画とは、同条所定の通常葉書以外の選挙運動に使用するすべてのものを指す。同条の「頒布」とは、文書図画を不特定または多数人に対して配布することを要するが、現に配布を受けた者が特定の少数人であっても、その者を通じて当然または成行上、不特定または多数人に配布されるべき状況の下になされた場合は、頒布にあたる。
重要事実
被告人AおよびBは共謀の上、選挙運動のために使用する文書に該当する「名刺」を配布した。この名刺は、検印を受けたポスター等の例外を除き、法142条により頒布が禁止されている文書図画に該当するものであった。被告人らは、特定の少数人に対して名刺を配布したが、これが不特定・多数人へ拡散される状況にあったかが問題となった。
あてはめ
本件の名刺は、特定の候補者の選挙運動のために使用される文書図画であると認められる。被告人らはこれを特定の少数人に手渡しているが、名刺という性質上、受け取った者がさらに他者へ配布したり、広く提示したりすることが当然に予定されている。このような「その者を通じて当然もしくは成行上不特定又は多数人に配布さるべき情況」がある場合には、不特定多数への直接配布と同視でき、頒布罪の構成要件を充足する。
結論
被告人らの行為は公職選挙法142条の「頒布」に該当し、同条違反の罪が成立する。
実務上の射程
選挙運動の公正を期する観点から「頒布」を広めに解釈する判例である。特定の少数者への交付であっても、二次的な拡散の蓋然性(成行上の配布可能性)があれば「頒布」に含めるという論理は、現代のSNS等を利用した選挙運動の規制を考える上でも示唆に富む。
事件番号: 昭和39(あ)37 / 裁判年月日: 昭和39年6月16日 / 結論: 棄却
一 原判決の公職選挙法第一四二条第一項、第一四六条第一項にいわゆる頒布に対する判示解釈は正当である(昭和三五年(あ)第一五一一号同三六年三月三日第二小法廷判決、刑集第一五巻三号四七七頁参照)。 二 (原判示解釈の要旨)公職選挙法第一四六条第一項の頒布、同法第一四二条第一項の頒布とは多数人に配布することをいい、その多数人…