農業を営む者が、自動三輪車の運転免許を受け、平素より自動三輪車により農産物、肥料等の運搬をしていた場合、その自動三輪車運転が、たまたま、農産物、肥料等の運搬に全く関係なく、自己の属する消防団の消防機械の定例手入指揮の帰途に為されたものであつても、その運転に関し注意義務を欠いたため人を傷害したときは、業務上過失傷害罪が成立する。
業務上過失傷害罪の成立する事例。
刑法211条
判旨
刑法上の「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務をいい、自動車の運転がこれに該当する場合、当該運転行為自体がたまたま本来の目的外で行われたとしても業務性は失われない。
問題の所在(論点)
平素から業務として自動車を運転している者が、たまたま業務目的とは無関係な私的な用務のために運転し事故を起こした場合、刑法上の「業務上過失」に問えるか。
規範
刑法211条後段(現行211条1項)の「業務」とは、社会生活上の地位に基づき、反復継続して行われる事務を指す。一度業務として確立された事務については、個別の行為が具体的な業務目的(本来の用務)と直接関係のない私的な機会に行われた場合であっても、その行為が業務の性質を有する限り、業務上の注意義務が課される。
重要事実
被告人は農業を営む者であるが、自動三輪車の運転免許を有し、平素より自己所有の車両を用いて農産物や肥料の運搬に従事していた。本件事故当時、被告人は所属する消防団の消防機械定例手入式の帰途にあり、農産物等の運搬という本来の業務目的とは無関係に当該車両を運転していたが、その運転中に注意義務を怠り人を傷害させた。
事件番号: 昭和34(あ)1778 / 裁判年月日: 昭和35年1月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死罪における「業務」とは、本件犯行直前にも数回にわたり自動三輪車の運転を反復継続して行っていた事実があれば肯定される。また、自白の補強証拠は犯罪構成要件たる事実全体について存在すれば足り、自白の各部分について個別に要するものではない。 第1 事案の概要:被告人が自動三輪車を運転中に過失…
あてはめ
被告人は、農業に伴う運搬作業のために反復継続して自動三輪車を運転しており、社会生活上の地位に基づき運転業務に従事する者に該当する。本件の運転は、消防団の行事の帰りという「本来の運搬業務とは無関係な機会」になされたものであるが、運転行為自体は被告人が平素から反復継続して行っている事務の延長線上にある。したがって、たまたま個別の運転目的が業務外であったとしても、運転に伴う高度な注意義務は免除されず、依然として業務上の行為といえる。
結論
被告人の運転行為は刑法上の「業務」に該当し、業務上過失傷害罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、自動車の運転のようにそれ自体が危険性を伴う事務について、一度「業務」としての性質が認められれば、私用運転であっても業務性を認めるという「包括的業務性」を肯定している。司法試験においては、医師による医療行為や自動車の運転など、社会生活上の地位に基づく危険な事務に関する業務性の肯定範囲を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和33(あ)1995 / 裁判年月日: 昭和34年4月23日 / 結論: 棄却
被告人は第一審判決判事のように自動車の練習並に車洗いのため十数回以上に亘つて小型自動四輪車を運転していたというのであるから予て自動車運転の業務に従事していたものと認めて毫も妨けないものである。
事件番号: 昭和35(あ)2120 / 裁判年月日: 昭和38年11月12日 / 結論: 棄却
自動車運転を業とする被告人が午後七時三〇分頃から清酒三合位及びウイスキー一合位を飲み、少しく酒に酔つて午後八時四五分頃、酒気を帯び自動車を正常に運転できない虞があり、更に酔が廻つて前方注視などが困難となり、正常運転ができなくなる状態であるのに、予め休息して酔の醒めるのを待つことなく、あえて自動三輪車を運転しはじめ午後九…
事件番号: 昭和29(あ)2686 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「業務」とは、社会生活上の地位に基づき、反復継続して行われる事務をいい、本件のような車両の運転行為もこれに該当する。 第1 事案の概要:被告人が車両を運転して事故を起こし、業務上過失致死傷罪(当時の刑法211条)に問われた。被告人側は、当該運転行為が刑法上の「業務」に該当しないと主張して上…
事件番号: 昭和46(あ)1938 / 裁判年月日: 昭和47年6月9日 / 結論: 棄却
一 弁護人の上告趣意のうち判例違反をいう点は、第一審判決が本件業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪とを観念的競合として法令を適用したのに対し、両罪を併合罪と解すべきである旨を主張するに帰し、被告人に不利益な主張であるから不適法である。 二 (参考)本件は、犯罪事実として、業務上過失傷害罪および酒酔い運転の罪のほかに、被害者…