地方裁判所の一人の裁判官をもつて構成する裁判所としての押収物仮還付請求却下の裁判は、刑訴第四二九条にいう「その他の裁判官がした裁判」にはあたらず、これに対する抗告審は高等裁判所である。
地方裁判所(単独制)のした押収物仮還付請求却下の審判に対する不服の申立を審判すべき裁判所
刑訴法123条2項,刑訴法419条,刑訴法429条1項2号
判旨
地方裁判所の単独の裁判官をもって構成する裁判所がした押収物仮還付請求却下の決定は、刑事訴訟法429条の「裁判官がした裁判」ではなく、裁判所の決定としての性質を有するため、不服申立ては高等裁判所への抗告によるべきである。
問題の所在(論点)
地方裁判所の一人の裁判官によって構成される裁判所がした押収物仮還付請求却下の裁判は、刑事訴訟法429条にいう「その他の裁判官がした裁判」に該当するか。また、裁判の迅速を欠くことが直ちに憲法37条1項違反として判決の破棄事由となるか。
規範
刑事訴訟法429条1項各号に規定される不服申立ての対象は「その他の裁判官がした裁判」であり、これに対しては当該裁判官が所属する裁判所に準抗告を申し立てる。しかし、地方裁判所の一人の裁判官をもって構成する裁判所がした裁判は、裁判所としての決定であり、これに対する抗告審は高等裁判所となる。
重要事実
山形地方裁判所新庄支部(一人の裁判官により構成)に対し、押収物の仮還付請求がなされた。これに対し、同裁判所は請求を却下する裁判を下した。この却下決定の不服申立て先が、同裁判所に対する準抗告(刑訴法429条)なのか、高等裁判所に対する抗告(刑訴法422条等)なのかが争点となった。
事件番号: 昭和36(し)62 / 裁判年月日: 昭和36年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特別抗告の理由として主張される判例違反について、引用された判例が事案を異にする場合には、適法な抗告理由には当たらない。 第1 事案の概要:本件は、特別抗告人が高等裁判所の判決に対して特別抗告を申し立てた事案である。抗告人は、原判決が複数の高等裁判所の判例に違反している旨を主張して抗告の理由としたが…
あてはめ
本件における押収物仮還付請求却下の裁判は、裁判官個人の権限で行われたものではなく、地方裁判所の単独制の裁判所としてなされた決定である。したがって、刑訴法429条所定の「その他の裁判官がした裁判」には当たらない。また、迅速な裁判の保障(憲法37条1項)については、仮に裁判が迅速を欠いたとしても、それが直ちに判決の結果に影響を及ぼすとはいえないため、破棄理由にはならない。
結論
本件決定は「裁判官がした裁判」に該当せず、不服申立て先を高等裁判所とした原決定は正当である。また、迅速な裁判の不履行を理由とする抗告も理由がないため、本件特別抗告を棄却する。
実務上の射程
裁判所としての判断と、裁判官個人の判断を区別する。単独制の裁判所が「裁判所」として下した決定については、準抗告(429条)ではなく通常の抗告(420条等)の手続きによるべきことを示す。刑事訴訟法上の不服申立ての適法性を検討する際の基礎的な法理となる。
事件番号: 昭和36(し)59 / 裁判年月日: 昭和36年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件最高裁決定は、下級審の判断が引用された判例とは事案を異にするものであるとして、判例違反を理由とする特別抗告を棄却したものである。 第1 事案の概要:本件は、特別抗告人が高等裁判所の判例違反を主張して特別抗告を申し立てた事案である。しかし、抗告理由の中で引用された各高等裁判所の判例は、本件の具体…
事件番号: 昭和44(し)70 / 裁判年月日: 昭和44年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の特別抗告(刑訴法433条)において、違憲主張が実質的な法令違反にすぎない場合や、判例違反の具体的摘示がない場合は、正当な抗告理由にあたらない。 第1 事案の概要:抗告人は、原決定に対し最高裁判所へ特別抗告を申し立てた。抗告の趣旨において憲法違反を主張したが、その内容は実質的に単なる法令違反…
事件番号: 昭和36(し)56 / 裁判年月日: 昭和36年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特別抗告において引用された高等裁判所の判例が、事案を異にし本件に適切でない場合には、憲法違反や判例違反の主張としての具体性を欠くため、特別抗告の適法な理由とはならない。 第1 事案の概要:抗告人は、原決定に対し、高等裁判所の判例に違反する旨を主張して特別抗告を申し立てた。しかし、抗告人が引用した各…
事件番号: 昭和28(し)11 / 裁判年月日: 昭和28年9月16日 / 結論: 棄却
検察官のした押収物還付処分は還付すべき相手方を誤認したとしてその変更を求める請求を、単に理由なきものと認めて棄却したに過ぎない下級裁判所の決定に対しては、たとえ該決定の違憲を云為しても特別抗告適法の理由とはならない。