控訴審が、第一審判決判示第二および第三(一)(二)の事実認定ならびに法令の適用には誤がないとして是認し、ただ同判決第一事実は犯罪の証明がないとして破棄自判する場合において、あらためて右判決の判示第二および第三(一)(二)と同一事実を認定判示することは違法である。
控訴審が第一審判決の併合罪の関係にある一部の事実認定を是認し、他の事実には犯罪の証明がないとして破棄自判する場合と前者の事実をさらに自ら認定判示することの適否。
刑訴法382条,刑訴法397条,刑訴法400条
判旨
控訴審は事後審であり、一審判決の事実認定に誤認も違法もないとしてこれを維持した以上、自ら改めて事実認定をなすべきではない。もっとも、一審を破棄して自判する際に維持すべき事実を一審と同旨で認定することは、一審事実を引用したのと同一に帰し、著しく正義に反するほどの違法とはならない。
問題の所在(論点)
控訴審(事後審)において、第一審判決の事実認定を正当として維持したにもかかわらず、裁判所が自ら改めて事実認定を行うことは許されるか(控訴審の事後審構造と事実認定の在り方)。
規範
刑事訴訟法における控訴審の構造は事後審であり、覆審ではない。したがって、控訴裁判所が第一審判決の事実認定に誤認も違法もないとしてこれを維持した場合には、更に従前の認定に代えて自ら改めて事実認定をなすべきではない。ただし、第一審判決を破棄して法律適用をするにあたり、第一審判決と同一の趣旨で事実を認定・説明することは、実質的に第一審判決事実を引用したことと同一に帰するため、直ちに破棄事由となる違法とはならない。
重要事実
被告人が控訴したところ、原審(控訴審)は、第一審判決のうち一部の事実については証明不十分として破棄したが、他の判示事実については第一審の事実認定および法令適用に誤りがないとして控訴趣意を排斥した。しかし、原審は刑事訴訟法400条但書により自判する際、維持されるべき事実について、第一審の認定と同一趣旨の内容を、ほぼ同一の証拠に基づいて改めて自ら認定・判示する措置を講じた。
事件番号: 昭和27(あ)6762 / 裁判年月日: 昭和28年8月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する公平な裁判所の趣旨は、個々の事件の内容や実質が当事者から見て不当な裁判を指すものではなく、また思想的転向の有無等による量刑上の差別がない限り、裁判官の良識に従った判断は同条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において第一審判決を受けた後、検察官が控訴した。原審…
あてはめ
原判決の措置は、控訴審が事後審であるという原則に照らせば、一審認定を維持しつつ重ねて自ら事実認定を行う点で違法であるといわざるを得ない。しかし、その認定内容や証拠の説明は第一審判決と同旨であり、実質的には第一審判決の事実を引用して法律適用を行ったのと同等である。したがって、このような形式的な重複認定は、判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められるほどの重大な違法(刑訴法411条1号)には当たらない。
結論
控訴審が第一審の事実認定を維持しながら自ら事実認定をなすことは事後審の構造上不適切であるが、その内容が一審と同旨であれば、著しく正義に反する違法とはいえず、本件上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審が破棄自判(刑訴法400条但書)を行う際の事実認定の手法に関する判例。実務上、一審事実を維持して自ら判決を書き下ろす際の形式的瑕疵が、直ちに破棄事由となるわけではないことを示している。答案上は、控訴審の事後審的性格を論じる際、一審認定を尊重すべき原則の裏付けとして引用できる。
事件番号: 昭和31(あ)326 / 裁判年月日: 昭和31年11月30日 / 結論: 棄却
原判決が第一審判決を量刑不当の理由で破棄自判するに当り、第一審判決認定の事実に法令を適用したのみで、その証拠を援用せず又はその証拠の標目を掲げていないとしても、原判決は第一審判決挙示の同一の証拠を援用した趣旨と解するのが相当である。
事件番号: 昭和41(あ)1226 / 裁判年月日: 昭和41年10月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留処分の違法は、それ自体に対して別途の救済方法によるべきであり、仮に勾留が違法に継続されたとしても、そのことから直ちに爾後の手続すべてが違法となるわけではない。 第1 事案の概要:被告人が勾留された状態で行われた刑事裁判の手続において、弁護人は勾留処分の違法性を主張し、それが憲法34条後段(不当…
事件番号: 昭和30(あ)2602 / 裁判年月日: 昭和30年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法14条の法の下の平等は、犯罪行為を行った者がその処罰を免れる根拠となるものではなく、被害者の行為が不当であっても被告人の刑事責任は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Aらは、被害者Bに対して犯罪行為を行ったとして起訴された。被告人側は、被害者Bが行っていたスパイ行為こそが被告人らの憲法上保…
事件番号: 昭和31(あ)2613 / 裁判年月日: 昭和31年10月30日 / 結論: 棄却
前に二回にわたり傷害罪で処罰された事実を資料として、その後一年余を経過して行われた暴行脅迫の行為を暴力行為等処罰に関する法律第一条第二項にいう常習として犯されたものと認定しても差支えない。