農業協同組合の役員が、組合員外の非法人たる河川改修準備委員会に対し、仮払金名義の下に同組合保管金中の一部の金員を貸し付ける所為は、農業協同組合法第九九条違反の罪を構成する。
農業協同組合法第九九条違反の罪を構成する事例。
農業協同組合法99条,農業協同組合法10条1項1号,農業協同組合法12条1項(昭和29年法律184号により改正前のもの)
判旨
農業協同組合等の特別法に基づく法人が、その目的である事業の範囲を逸脱して行った貸付行為は、法人の権利能力を欠くものとして私法上無効となるだけでなく、刑法上の背任罪等における「任務違背行為」に該当し得る。
問題の所在(論点)
農業協同組合の職員等が、組合の事業範囲を逸脱して資金の貸付を行った場合、その行為は背任罪(刑法247条)における「任務に背く行為」といえるか。法人の目的範囲外の行為と、事務処理者の任務違背性の関係が問題となる。
規範
法人が法令又は定款に定められた事業の範囲外の行為を行うことは、法人の権利能力の範囲を逸脱するものであり、当該法人の事務を処理する者がこれを行うことは、本来の職務上の義務に背く「任務違背行為」にあたる。
重要事実
被告人Aは、B農業協同組合の事務に従事していたが、同組合の定款等で定められた事業の目的や範囲を逸脱した態様で、組合資金の貸付を行った。弁護人は、当該行為が実質的に法令違反や事実誤認に当たらないと主張して上告したが、原審は組合の事業範囲外の貸付であることを認定していた。
事件番号: 昭和32(あ)1074 / 裁判年月日: 昭和34年8月8日 / 結論: 棄却
村長が特定の個人の選挙運動資金を村費から支出するため、該個人の利益を図り、道路改修工事補助金名下に実際の所要経費に右運動資金所要見込額を水増した内容不実の歳出追加更正予算案(道路修繕維持費)を発案し、その旨あらかじめ村議会協議会において村議会議員に諮議しその無修正可決につき諒解を得た上右予算案を村議会本会議に提出し、所…
あてはめ
最高裁は、被告人Aによる本件貸付について、B農業協同組合の「事業の範囲外の貸付」であるとした原判示を「相当」と判断した。法人が定款等によって制限された目的範囲外の行為を行うことは、その構成員に対する忠実義務に反する性質を有するため、客観的に任務違背性が認められると解される。したがって、本件貸付は適法な組合運営の範囲を逸脱した任務違背行為に該当すると評価された。
結論
被告人による本件貸付は、農業協同組合の事業範囲を逸脱したものであり、任務違背行為として背任罪等の構成要件を充足し得る。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、法人の目的外行為(ウルトラ・ヴィーレスの理論)が刑法上の任務違背性の判断に直結することを示唆している。答案上は、背任罪の成否を検討する際、まずは私法上・行政上の枠組み(定款や特別法)から当該事務処理の権限を画定し、その逸脱をもって任務違背行為を基礎付ける際の根拠として活用できる。ただし、本決定自体は簡短な上告棄却決定であるため、具体的な判断基準の詳細については他の重要判例を併用すべきである。
事件番号: 昭和57(あ)671 / 裁判年月日: 昭和60年4月3日 / 結論: 棄却
信用組合の専務理事である被告人が、自ら所管する貸付事務について、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、無担保あるいは不十分な担保で貸付を実行する手続をとつた本件行為は、それが決裁権を有する理事長の決定・指示によるものであり、被告人がその貸付について理事長に対し反対意見を具申したという事情があつたとしても…