窃盗罪の成立には財物占有の移転が窃かに行われることを要しない。
窃盗罪は占有の移転が窃かに行われることを要するか
刑法235条
判旨
窃盗罪(刑法235条)の成立には、財物の占有移転が密かに行われることは要件ではなく、公然と行われた場合であっても同罪は成立する。
問題の所在(論点)
刑法235条の窃盗罪の成立において、財物の占有移転が「密か」に行われることが要件となるか。すなわち、公然と行われる「ひったくり」や「白昼堂々の持ち去り」のような行為に窃盗罪が成立するかが問題となる。
規範
窃盗罪(刑法235条)は、他人の占有する財物を、その意思に反して自己又は第三者の占有に移転させること(奪取)によって成立する。この占有移転の態様が、被害者に気づかれないよう「密か(隠密)」に行われるか、あるいは被害者の眼前で「公然」と行われるかは、同罪の成否を左右するものではない。
重要事実
本件において被告人は、他人の財物を奪取する行為に及んだが、その態様が密かに行われたものではなかった。弁護人は、窃盗罪は「密かに行われること」を前提とするものであり、公然と行われた本件行為には窃盗罪は成立しない、あるいは密かに行われない場合には別の評価がなされるべきである旨を主張して上告した。なお、具体的な奪取の対象物や行為の詳細は判決文からは不明である。
事件番号: 昭和32(あ)67 / 裁判年月日: 昭和32年9月12日 / 結論: 棄却
欺罔手段によつて相手方の財物に対する支配権を侵害した以上、相手方が闇取引のため財物を交付したのであつても詐欺罪が成立するものであることは、当裁判所の判例とするところである。(集四巻七号一一六八頁、集四巻一二号二四七五頁)
あてはめ
窃盗罪の本質は、他人の占有を排除して自己の占有を設定する点にある。本件において、被告人の行為は、たとえそれが密かに行われたものではなくとも、他人の財物に対する占有を侵害し、これを自己の支配下に置いたものであると評価できる。したがって、隠密性は窃盗罪の構成要件を画する要素とはならず、占有侵害の事実が認められる以上、同罪の成立を妨げるものではないと解される。
結論
窃盗罪は密かに行われたか否かにかかわらず成立する。したがって、公然と財物を奪取した本件についても、窃盗罪の成立を認めた原判断は正当である。
実務上の射程
実務上、窃盗と強盗や詐欺を区別する要素は「暴行・脅迫」や「欺罔」の有無であり、隠密性の有無ではないことを明確にする際に用いる。答案上では、ひったくり等の事案で「占有奪取」の認定を行う際、被告人側から『密かに行っていない』との反論が想定される場面で、本判例を根拠に『隠密性は不要である』と短く指摘する形で活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)4185 / 裁判年月日: 昭和28年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】財物の移転が占有者の任意の交付によらない場合には、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が他人の財物を取得した事案において、弁護人は詐欺罪の成立を示唆する判例を引用して上告したが、本件の実態は被害者による財物の「任意の交付」が認められない態様での占有移転であった(詳細な具体的態…