重過失失火罪において、いやしくも被告人の重過失が火災発生に対して一つの条件を与えた以上は、その重過失が右結果に対する唯一の原因ではなく火気取扱責任者の過失と相俟つて共同的に原因を与えた場合であつても、失火の責任を負うべきものである。
重過失失火罪における他人の過去の存在と重過失者の罪責。
刑法117条ノ2
判旨
業務上の注意義務は、法令上の管理責任者が存在する場合であっても、職務上の役割分担等に基づき別個独立に認められ得る。また、事故の結果が自己の重過失と他人の過失が相まって発生したものであっても、自己の重過失が結果発生の条件となっている限り、重過失失火罪の責任を免れない。
問題の所在(論点)
1. 法令上の管理責任者が別に存在する場合に、現場作業担当者に独立した注意義務が認められるか。2. 他人の過失が事故に関与している場合、自己の重過失による罪責は否定されるか。
規範
1. 危険物取扱責任者等の法令上の責任者が存在する場合であっても、具体的職務内容や荷役作業の分担関係に照らし、それとは別個独立に火災発生の危険予防措置を講ずべき注意義務が認められる。2. 過失の競合がある場合、被告人の過失が結果発生に対して一つの条件を与えた以上、それが唯一の原因でなく他人の過失と相まって共同的に原因となった場合であっても、過失犯としての責任を負う。
重要事実
被告人は油槽船の甲板長として、船長らの指揮下で積油の荷揚、ホースの連結、バルブの開閉等の荷役作業を担当する責任者であった。ガソリンの荷役中、船外排出弁からの漏洩により火災が発生したが、被告人はこの漏洩防止措置を怠った。弁護人は、消防法等の法令上の危険物取扱責任者(油槽所長)が別に存在すること、および石油会社側の設備不備や所長の過失が事故の原因であるとして、被告人の無罪を主張した。
あてはめ
1. 荷揚業務は油槽船側と油槽所側で分担されており、油が油槽所のホースに移るまでは船側の管理下にある。被告人は甲板長として具体的な荷役作業の責任者である以上、法令上の管理者とは別に、職責上独立して漏洩防止・火災予防の注意義務を負う。2. 石油会社側の設備不備や所長の過失があったとしても、被告人が甲板長としての注意義務を怠った重大な過失が、失火という結果に対する一つの条件となっていることは否定できない。したがって、他人の過失と競合して結果が生じた場合であっても、被告人はその責任を免れない。
結論
被告人には重過失失火罪が成立する。法令上の責任者の有無や他人の過失の介在は、被告人自身の重過失に基づく刑事責任を阻却しない。
実務上の射程
過失の共同原因(競合)に関する基本判例である。答案上は、他人の過失を理由に過失を否定する反論に対し、「因果関係における条件関係(一つの条件)」および「義務の独立性」の観点から責任を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和42(オ)281 / 裁判年月日: 昭和42年6月30日 / 結論: 棄却
被用者が重大な過失によつて火を失したときは、使用者は、被用者の選任または監督について重大な過失がなくても、民法第七一五条第一項によつて賠償責任を負う。
事件番号: 昭和58(あ)829 / 裁判年月日: 昭和60年10月21日 / 結論: 棄却
一 刑法一一七条の二にいう業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 二 刑法二一一条にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。 三 ウレタンフオームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者として、易燃物であるウレタンフオームを管理するうえで当然に伴う火災…