鉱山会社とその労働組合との賃金問題等に関する団体交渉が同会社のクラブ内会議室において開始され、その交渉が深夜一旦休憩に入つた際、交渉の行き詰つたことを聞知して憤慨した労組員らが、右クラブの表門を通つて同クラブ玄関にいたり、会社側係員および組合幹部の阻止するのを排し、強いて土足のまま玄関より屋内に乱入した所為は、労働組合法第一条第一項の目的達成のためにする正当行為であると認めることはできない。
労働組合法第一条第一項の目的達成のための正当行為と認められない事例。
労働組合法1条,憲法28条
判旨
団体交渉が中断した際に、憤慨した組合員らが会社側の制止を振り切り、土足で建物内に乱入する行為は、労働組合法1条2項の正当な行為には該当せず、住居侵入罪を構成する。
問題の所在(論点)
団体交渉の継続中に、組合員が会社側の制止を無視して建物内に乱入する行為が、労働組合法1条2項の「正当な行為」として住居侵入罪(刑法130条前段)の違法性を阻却するか。
規範
労働組合法1条2項が規定する刑事免責の対象となる「正当な行為」とは、憲法28条の趣旨に基づき、団体交渉等の目的達成のために必要かつ相当な範囲内で行われる行為を指す。暴力の行使や、管理者の意思を著しく抑圧する態様での建造物への侵入は、正当な組合活動の限界を超えるものであり、刑法上の違法性が阻却されない。
重要事実
被告人らは、会社建物(E倶楽部)内で行われていた団体交渉が深夜に休憩に入った際、交渉の行き詰まりを知って憤慨した。被告人らは互いに意思を通じ、他の組合員らと共に表門を通って玄関に至ると、会社側係員や組合幹部が制止したにもかかわらず、これを排して土足のまま一斉に建物内へ乱入した。
あてはめ
被告人らの行為は、団体交渉の行き詰まりに対する憤激を動機としており、単なる交渉への参加という枠を超えている。また、会社側係員による明確な「阻止」があるにもかかわらず、これを「排して強いて土足で乱入」したという態様は、平穏な管理権を著しく侵害する暴力的かつ威圧的なものである。このような態様の行為は、労働組合の目的達成のために許容される必要最小限の手段とは認められず、正当な組合活動の範囲を逸脱していると評価される。
結論
被告人らの行為は労働組合法上の正当行為には当たらず、住居侵入罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、組合活動に伴う施設利用の限界を示したものである。組合活動であっても、管理者の明示の拒絶に反した強行的な立ち入りは、正当性を失い刑事責任を免れないことを明確にしている。司法試験においては、争議行為の正当性(特に手段の相当性)を検討する際の考慮要素として、制止の有無や侵入の態様を論じる際に参照すべきである。
事件番号: 昭和39(あ)2588 / 裁判年月日: 昭和42年8月28日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和28(あ)56 / 裁判年月日: 昭和31年10月24日 / 結論: その他
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