第一審裁判所が公訴事実はこれを認めるに足る証拠がないとして無罪の判決を言い渡したのに対し、原審裁判所のした破棄差戻判決における破棄の理由として示された判断が、第一審裁判所の無罪判決には事実の誤認および訴訟法の違反があり、そのために有罪を宣告すべきにかかわらず、無罪を宣告しているのであるから、右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるというにある場合には、差し戻しを受けた第一審裁判所は、第一審判決に事実誤認、訴訟法違反があり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとの原判決の判断の範囲内において更に審理すべき拘束を受けるに止まり、必ず有罪の宣告をしなければならないというごとき拘束を受けるものではない。
破棄差戻判決の拘束力
裁判所法4条,刑訴法397条,刑訴法400条本文
判旨
控訴審が第一審の無罪判決を事実誤認により破棄し、差し戻しを命じた場合、差戻し後の裁判所は破棄理由となった判断事項については拘束されるが、本案の結論(有罪・無罪)そのものについて拘束を受けるものではない。
問題の所在(論点)
控訴審が「有罪を宣告すべきにかかわらず、無罪を宣告している」との理由で無罪判決を破棄差し戻した場合、差戻し後の裁判所は特定の結論(有罪)を出すように拘束されるのか。また、それが司法権の独立や被告人の権利を侵害するか。
規範
控訴審が第一審判決を事実誤認を理由に破棄して差し戻す場合、差戻しを受けた裁判所は、控訴審が示した「事実誤認または訴訟法違反があり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである」という判断の範囲内において審理をなすべき拘束力を受ける。しかし、それは具体的な結論(例えば有罪判決を下すこと等)を強制するものではなく、裁判所は独自の審理に基づき結論を出すべきである。
重要事実
被告人Aらに対し、第一審裁判所は証拠不十分として無罪を言い渡した。これに対し、控訴審判決は、第一審が採証法則に違反して証拠の価値判断を誤り、有罪を宣告すべきところを無罪とした事実は判決に影響を及ぼす事実誤認であると判断した。控訴審は、第一審判決を破棄した上で、自ら判決を下す(自判)段階にはないとして、刑事訴訟法400条本文に基づき本件を第一審に差し戻した。被告人側は、控訴審の文言が実質的に有罪を命じているのと同等であり、裁判官の独立(憲法76条等)に反すると主張して上告した。
あてはめ
控訴審判決における「有罪を宣告すべきにかかわらず〜」との文言は、あくまで第一審の無罪判決に事実誤認や訴訟法違反があり、その誤りが結論に影響を及ぼしていることを示す趣旨にすぎない。差戻しを受けた裁判所は、控訴審が判示した「事実誤認・訴訟法違反が存在する」という判断の範囲内では拘束を受けるが、必ずしも有罪の宣告をしなければならないという拘束を受けるわけではない。したがって、下級審の裁判官の判断を不当に拘束するものではなく、違憲の主張は前提を欠く。
結論
本件上告を棄却する。控訴審の破棄差戻しは、差戻し後の裁判所に対し有罪判決を強制するものではないため、憲法には違反しない。
実務上の射程
刑事訴訟法における差戻判決の拘束力に関するリーディングケース。答案上は、控訴審が事実誤認を理由に差し戻す際、下級審をどこまで拘束するかという文脈で用いる。判示の趣旨は「事実判断のプロセス」の誤りについて拘束力を認めるものであり、結論の自由までは奪わないとする論理構成で活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)6907 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
控訴審において事実の確定に影響を及ぼさない事由(本件では量刑不当)により第一審判決を破棄して自判する場合に第一審判決の認定した事実を基礎として法令を適用することの正当であることは、当裁判所の判例とするところであるから(昭和二七年(あ)四一七号同二八年一一月一〇日第三小法廷判決〔集七巻一一号二〇五一頁〕、昭和二七年(あ)…