一 売買農地の所有権移転は知事の許可と同時に其の効力を発生するものと解すべきである。 二 出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第四条所定の「金銭の貸借の媒介を行う者」とは単に金銭の貸借の媒介を行う者と解すべきであつて、業として行うと否とを問わない。 三 不動産の所有権が売買により買主に移転しかつ該不動産が買主に引渡されたとしても、登記簿上の所有名義がなお売主にあるときは、売主は刑法上その不動産を占有するものと解すべきである。 四 上告趣意書自体にその趣意内容を示さないで、単に上告受理申立の理由書記載事項につき裁判を求めると記載したものは、適法な上告趣意書といえない。
一 売買農地の所有権移転の効力発生時期 二 出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第四条所定の「金銭の貸借の媒介を行う者」の意義 三 不動産の登記簿上の所有名義と刑法上の占有 四 上告受理申立の理由書記載事項を援用した上告趣意書の適否
農地法3条1項,農地法92条,出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律4条,刑法252条,刑訴法407条,刑訴規則266条,刑訴規則240条
判旨
不動産売買において、売主が買主に物件を引き渡し、買主が事実上支配している場合であっても、登記名義が売主にある限り、売主は刑法上の「自己の占有する他人の物」の占有者に該当する。
問題の所在(論点)
不動産の売買において、物件が買主に引き渡され、買主が事実上の支配(物理的占有)を有している場合であっても、登記名義を有する売主は刑法上の「占有」者(刑法252条1項)といえるか。
規範
不動産の所有権が売却により他人に移転した場合、登記簿上の所有名義がなお売主にあるときは、売主はその不動産を占有するものと解される。この理は、当該不動産を買主に引き渡し、買主において事実上支配している場合であっても、異ならない。なぜなら、登記名義人である売主は、引渡し後においても第三者に対し有効に当該不動産を処分し得る法律上の地位(状態)にあるため、刑法上の占有者に該当するといえるからである。
重要事実
被告人Aらは、本件田地をC及びDに売り渡し、知事の許可を得て所有権が買主に移転した。被告人らは買主に対し物件を引き渡し、買主が事実上これを支配していたが、登記名義は依然として売主側の被告人等に残っていた。被告人らは、この登記名義が残っていることを奇貨として、本件不動産につき第三者のために抵当権を設定し、その旨の登記を了した。これについて横領罪の成否が争われた。
あてはめ
本件において、被告人らは農地を売却し、知事の許可により所有権は有効に買主へ移転しているため、本件不動産は「他人の物」にあたる。また、被告人らは物件を買主に引き渡しており、物理的な支配は買主にあるが、依然として被告人らのもとに登記名義が存している。登記名義人は、第三者に対して有効に不動産を処分し得る法律上の支配力を有しているといえる。したがって、物理的占有を失っていても、なお被告人らは本件不動産を「占有」していると評価される。この状態を利用して抵当権を設定した行為は、不法領得の意思の発現といえる。
結論
不動産の引渡し後であっても、登記名義を有する売主は占有者に該当し、無断で抵当権を設定する行為には横領罪が成立する。
実務上の射程
不動産横領における「占有」を、単なる物理的支配ではなく、法律上の処分可能性(登記の有無)に求めた射程の長い判例である。二重譲渡や本件のような抵当権設定事例において、売主の処罰根拠を「登記による処分可能性」に求めるロジックとして答案上必須となる。
事件番号: 昭和28(あ)269 / 裁判年月日: 昭和30年4月5日 / 結論: 棄却
一 他人所有の建物を適法な権限に基いて現実に使用管理するときは、刑法第二五二条第一項にいわゆる「占有」にあたる。 二 数名の共有に属する未登記建物について、そのうちの一部の者が他の者の合意の下に、その全部を現実に使用支配している場合に、右の一部の者が他の持分権利者を無視排除して、自己等のみで設立した有限会社に、自己等の…