通貨偽造罪における行使の目的は、自己が行使する場合に限らず他人をして真正の通貨として流通に置かせる目的でもよい。
通貨偽造罪における行使の目的。
刑法149条1項,刑法148条
判旨
刑法149条1項の「内国ニ流通スル外国ノ紙幣」には日本国内の米軍施設内で交換媒介物として発行されている弗表示軍票が含まれ、偽造通貨等行使罪の「行使の目的」は自己が行使する場合のみならず、他人をして真正の通貨として流通に置かせる目的でも足りる。
問題の所在(論点)
1. 日本国内の米軍施設内で流通する米国軍票が、刑法149条1項の「内国ニ流通スル外国ノ紙幣」に該当するか。2. 通貨偽造・行使罪の主観的要件である「行使の目的」には、他人に真正なものとして流通させる目的も含まれるか。
規範
1. 刑法149条1項にいう「内国ニ流通スル外国ノ紙幣」とは、日本国内に駐留する米軍施設において交換の媒介物として発行されている弗(ドル)表示軍票を含む。2. 通貨偽造・行使罪における「行使の目的」とは、単に自己が真正の通貨として使用する目的に限られず、他人をして真正の通貨として流通に置かせる目的(他人に流通させる目的)であってもこれに該当する。
重要事実
被告人らは、日本国内の米軍施設等で流通していた米国軍票(ドル表示)を偽造し、あるいは行使しようとした。被告人側は、当該軍票が刑法149条1項の「外国ノ紙幣」に該当しないこと、および、自ら直接行使する意図がない場合には「行使の目的」が認められないことを主張して上告した。
事件番号: 昭和27(あ)1079 / 裁判年月日: 昭和28年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】米軍軍票は、刑法149条1項にいう「内国ニ流通スル外国ノ紙幣」に該当する。これにより、米軍軍票の偽造等は外国紙幣偽造罪として処罰の対象となる。 第1 事案の概要:被告人らは、米軍軍票を偽造し、あるいはそれを使用したとして外国紙幣等偽造・同行使罪(刑法149条)に問われた。弁護側は、米軍軍票は日本国…
あてはめ
1. 米国軍票は日本国内の米軍施設内という特定の場所ではあるが、現実に交換の媒介物として発行・使用されている実態がある。したがって、その公共的信用の保護の必要性は通常の外国紙幣と異ならず、同条の客体に該当すると解するのが相当である。2. 被告人は自ら使用するだけでなく、他人を介して真正な通貨として流通させる意図を有していた。通貨偽造罪等の保護法益は通貨に対する公共の信用であり、偽造された通貨が最終的に真正なものとして流通に置かれる危険が生じる以上、自ら行使するか他人に行使させるかを問わず、行使の目的を肯定すべきである。
結論
米国軍票は刑法149条1項の客体に該当し、かつ他人をして真正の通貨として流通に置かせる目的がある以上、「行使の目的」も認められる。したがって、被告人らの行為について外国紙幣偽造・行使罪等の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
通貨偽造罪(148条)や外国通貨偽造罪(149条)における「行使の目的」の解釈を示す重要判例である。答案上は、直接の支払手段として用いる場合に限らず、偽造通貨を真正なものとして「流通に置く」意図があれば足りることを明示する際に引用すべきである。また、客体の「流通性」についても実質的に解釈する指針となる。
事件番号: 昭和29(あ)2549 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
弗表示軍票は刑法第一四九条第一項の「内国ニ流通スル外国ノ紙幣」に該当する。