強制弁護の事件について、控訴裁判所が被告人に対し控訴趣意書の最終差出日を通知するにあたり、まだ弁護人の選任届が提出されていない場合でも、先ず弁護人を選任したうえでなければ右通知をすることができないものではない。
控訴趣意書最終差出日の通知と弁護人選任の要否
刑訴法376条1項,刑訴法388条,刑訴法389条,刑訴法404条,刑訴法272条
判旨
裁判所が控訴趣意書の差出最終日を通知する際に被告人に弁護人がいない場合、その後に選任された弁護人に対して改めて最終日の通知を行う必要はない。弁護人が選任から最終日まで十分な期間があり、事件の内容も平易で記録の精査が容易な場合には、期間内に提出しなかった責任は弁護人側にあるとされる。
問題の所在(論点)
刑訴規則236条1項に基づく控訴趣意書差出最終日の通知義務の範囲が問題となる。具体的には、通知時点で弁護人が不在であり、通知後に弁護人が選任された場合、裁判所はその弁護人に対しても重ねて通知を行う必要があるか、また、通知がなかったことを理由に提出遅延を正当化できるか。
規範
刑訴規則236条1項が弁護人への控訴趣意書差出最終日の通知を定めているのは、最終日指定の当時、既に選任されている弁護人がある場合にその弁護人に対しても通知を要するという趣旨である。したがって、通知の際に被告人に弁護人がいない場合、一旦弁護人を付した上で通知しなければならないものではなく、また、通知後に選任された弁護人に対して改めて通知を行う義務もない。
重要事実
窃盗被告事件において、控訴裁判所は控訴申立人である被告人に対し、差出最終日を通知した。この通知時点では被告人に弁護人はおらず、裁判所は弁護人選任に関する通知も併せて送達した。その後、被告人は弁護人を選任して連署による届出を提出したが、裁判所はこの新任弁護人に対しては差出最終日の通知を行わなかった。弁護人選任から最終日までは2週間の猶予があったが、弁護人は期間内に控訴趣意書を提出しなかった。
事件番号: 昭和29(し)71 / 裁判年月日: 昭和30年2月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人および弁護人に対し控訴趣意書の提出期限が適法に通知されていた場合、弁護人の懈怠により期限内に提出されなかったとしても、控訴棄却の決定は適法である。弁護人の過失は当事者側の責任に帰せられるべきであり、裁判所の決定を違法とする理由にはならない。 第1 事案の概要:被告人(申立人)およびその弁護人…
あてはめ
本件では、通知がなされた後に弁護人が選任されており、裁判所が改めて通知を行わなかったことに手続上の違法はない。また、選任から最終日まで2週間の期間があり、事案も自動車内の衣類を窃取したという単純な窃盗事件であって記録も大部ではない。弁護人は被告人や裁判所と連絡をとれば最終日を知ることも提出することも容易であったと認められる。したがって、期間内に提出できなかったことは弁護人側の責任に帰すべきである。
結論
控訴趣意書差出最終日の通知後に選任された弁護人への通知は不要であり、提出遅延の責任は弁護人にある。本件特別抗告は棄却される。
実務上の射程
控訴審の手続適法性に関する重要判例。答案では、弁護人の訴訟活動を保障する観点から『通知』の要否が争点となる際に、規則の文言を限定的に解釈する根拠として用いる。ただし、あてはめにおいて『事案の難易』や『準備期間の十分性』を考慮している点に留意し、弁護権の侵害といえる特段の事情がないかを確認する視点が求められる。
事件番号: 昭和30(し)1 / 裁判年月日: 昭和30年10月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の提出最終日を弁護人に通知すべき義務は、当該最終日の指定当時において既に選任されている弁護人に対してのみ認められる。したがって、指定後に選任届が提出された弁護人に対しては、裁判所は改めて最終日の通知を行う必要はない。 第1 事案の概要:被告人は控訴を申し立てたが、裁判所が控訴趣意書の提出…
事件番号: 昭和30(し)46 / 裁判年月日: 昭和30年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の差出最終日の通知を弁護人に対しても行うべきとする刑訴規則236条1項は、通知の発送時点で既に弁護人選任届が提出されている場合に適用される。したがって、通知発送後に選任された弁護人に対して重ねて通知を行う必要はない。 第1 事案の概要:控訴審裁判所は、昭和30年5月30日に上訴記録の送付…
事件番号: 昭和38(し)15 / 裁判年月日: 昭和38年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の提出遅延に関し、所定の期間内に提出がなかった場合に「上申書」と題する書面を提出したとしても、それを適法な控訴趣意書とみなすことはできず、提出遅延を正当化する「やむを得ない事情」も認められない。 第1 事案の概要:控訴人が、所定の提出期間内に控訴趣意書を提出しなかった。期間徒過後に「上申…
事件番号: 昭和37(し)35 / 裁判年月日: 昭和37年9月27日 / 結論: 棄却
刑訴規則第二三六条の法意は、控訴趣意書差出最終日の通知は右最終日の指定後に弁護人選任届の提出された弁護人に対してこれをすることを要しない趣旨と解すべきである(昭和二五年(あ)二七七七号同二七年五月六日第三小法廷判決、刑集六巻五号七三三頁参照)