一 船舶を焼失沈没させて保険金を騙取したとの公訴事実の証明のために提出された被告人の供述調書で、船舶沈没事故があつたことだけを認め、それが犯罪に因るものであることを否定しているものも、刑訴第三二二条にいわゆる不利益な事実の承認を内容とする書面にあたる。 二 相被告人の検察官に対する供述を録取した書面で、その公判廷における供述よりも内容において詳細なものは、刑訴第三二一条第一項第二号にいわゆる公判期日において前の供述と実質的に異つた供述をしたときにあたらないとはいえない。
一 刑訴法第三二二条の書面にあたる一事例 二 刑訴法第三二一条第一項第二号の書面にあたる一事例
刑訴法322条,刑訴法321条1項2号
判旨
被告人が犯罪事実を否認している場合であっても、外形的な事実の承認が被告人に不利益な事実の承認に当たるならば刑訴法322条1項の書面に該当し、また相被告人の供述調書が公判供述より詳細であれば同法321条1項2号の要件を満たし得る。
問題の所在(論点)
1. 犯罪事実自体を否認している供述調書について、外形的事実の承認を理由に刑訴法322条1項の証拠能力を認められるか。2. 公判供述と大綱で一致していても、調書の方が詳細である場合に、刑訴法321条1項2号の「実質的に異なる」といえるか。
規範
1. 刑訴法322条1項にいう「被告人に不利益な事実の承認」とは、必ずしも犯罪事実そのものの承認に限られず、犯罪の外形的事実の承認であっても、それが被告人にとって不利益な内容であれば足りる。2. 同法321条1項2号後段にいう「前の供述と相反するか又は実質的に異なるとき」とは、供述の主要な部分で齟齬がある場合のみならず、公判廷での供述よりも調書の方が詳細であって、全体として実質的な差異が認められる場合を含む。
重要事実
被告人AおよびBは、船舶沈没事故に関連する罪で起訴された。被告人Bは、捜査機関に対して本件船舶沈没事故があったという外形的事実を認める供述をしたが、犯罪事実自体は否認していた。また、相被告人の供述調書については、公判廷における供述と大まかな内容(大綱)においては一致していたものの、調書の方が詳細な内容となっていた。弁護人は、これらの調書が伝聞例外の要件を満たさず証拠能力がないと主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人Bの調書について、本件が犯罪によるものであることは否定しているものの、船舶沈没事故があったという外形的事実を承認している点は被告人に不利益な事実の承認といえる。任意性も争われていない以上、322条1項の要件を満たす。2. 相被告人の調書について、公判廷での供述と大綱において一致していても、調書の方がより詳細な内容を含んでいるのであれば、両者は「実質的に異ならないものとはいえない」。したがって、321条1項2号の要件(相反・実質的差異)を満たすと解される。
結論
本件各供述調書の証拠能力を肯定し、証拠能力がないとする上告理由には当たらないとして上告を棄却した。
実務上の射程
322条1項の「不利益な事実」を広く解し、否認事件でも一部の事実承認があれば同条の適用があり得ることを示した点に意義がある。また、321条1項2号の「実質的差異」に関し、単なる内容の有無だけでなく詳細さの程度の差も考慮要素となる点は、実務上の証拠申出の判断において重要である。
事件番号: 昭和32(あ)374 / 裁判年月日: 昭和32年11月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法321条1項2号但書にいう「特に信用すべき情況」は、供述の内容自体から判断することが可能であり、その認定は事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられる。 第1 事案の概要:被告人両名につき、検察官面前調書の証拠能力が争われた事案。弁護人は、伝聞例外としての証拠能力を認める規定(刑訴法321条1…
事件番号: 昭和31(あ)1322 / 裁判年月日: 昭和33年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法321条1項2号後段に規定される「特信情況」の判断について、裁判所は特段の証拠調べを要さず、また判決文においてその詳細を明示的に判断・説示する必要はない。 第1 事案の概要:被告人Bの刑事裁判において、証人Cが公判廷で行った証言が、以前に検察官に対して行った供述調書の内容と相反していた。…