海中に取り落した物件については、落主の意にもとづきこれを引き揚げようとする者が、その落下場所の大体の位置を指示し、その引揚方を人に依頼した結果、その人が該物件をその附近で発見したときは、依頼者がその発見された事実を知らなくても、依頼者はその物件に対し所持即ち事実上の支配管理を有するものと解すべきである。
海中に取り落した物件について所持の認められる一事例
刑法235条,刑法254条
判旨
海中に取り落とした物件であっても、落主が落下場所の大体の位置を指示し、引揚げを他人に依頼した結果、その付近で物件が発見された場合には、依頼者は物件に対する占有を有すると解される。
問題の所在(論点)
海中に落下し、直接の支配から離れた物件について、場所の指示と引揚げの依頼という行為のみをもって、刑法上の「占有(所持)」が認められるか。特に、現物の握持や監視がない状態での占有の成否が問題となる。
規範
物の占有(刑法上の所持)とは、物に対する事実上の支配管理を指す。直接の握持や現物の視認、継続的な監視がなくとも、落主の意思に基づき引揚げを依頼し、落下場所の指示等を通じて管理支配意思と支配可能な状態が認められる場合には、占有が認められる。
重要事実
被告人Bは物件を海中に取り落としたが、これを自ら引き揚げようと考え、その落下場所の概ねの位置を他人に指示した上で、引揚げ作業を依頼した。その後、依頼を受けた者が指示された付近を捜索した結果、当該物件が発見された。この過程において、被告人Bは物件を直接手に取っておらず、また発見の瞬間を目撃したり監視したりすることもできていなかった。
あてはめ
本件では、被告人Bが落下場所の大体の位置を特定して指示していることから、客観的に支配可能な範囲が限定されている。また、引揚げを他人に依頼したことは、落主の意に基づく支配の継続を意図するものであり、管理支配意思が認められる。依頼の結果として物件が指示範囲内で発見された以上、依頼者は物件を現実に握持せず、監視もしていなかったとしても、社会通念上、物件を事実上の支配管理下に置いていたといえる。
結論
依頼者は当該物件について占有を有する。したがって、これを不法に領得する行為は、占有離脱物横領罪ではなく窃盗罪を構成し得る。
実務上の射程
占有の概念について、物理的な握持や監視といった密接な関係を緩和し、支配意思と支配可能性(場所的近接性や追及の可能性)による規範的判断を重視する立場を鮮明にした。海中転落のような物理的な支配が一時途絶したケースにおいて、被害者の「追及意思」が客観的状況(場所の指示・依頼)を通じてどのように占有を維持させるかを論じる際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和35(あ)1041 / 裁判年月日: 昭和37年3月16日 / 結論: 棄却
被害者が電車道寄りの歩道端に在つた塵箱の上に革製シヨルダーバツク(カメラ等在中)とカメラの三脚とを置いて右塵箱から約七米離れた店舗内に入り表戸を開けたまま短時間(約五分間)店内にとどまつていたにすぎない場合には、右シヨルダーバツクは被害者の占有を離れたものとはいえない。