一個の窃盗として起訴せられたものを、訴因の追加変更の手続を経ないで、二個の窃盗と認定しても、公訴事実の同一性を失わずかつ被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れがない限り、違法ではない。
一罪の訴因を二罪と認定する場合と訴因の追加変更
刑訴法312条,刑訴法256条,刑法235条
判旨
公訴事実と認定事実の間に基本的事実関係において同一性があり、かつ被告人の防禦に実質的不利益を生ずるおそれがない場合には、訴因変更の手続きを経ることなく公訴事実と異なる事実を認定しても適法である。
問題の所在(論点)
訴因には1個の窃盗として記載されている事実を、裁判所が訴因変更なしに2個の窃盗事実として認定することが、訴因変更手続きを定めた刑訴法312条1項に違反しないか。
規範
訴因変更(刑事訴訟法312条1項)の手続きを要するか否かは、認定事実が訴因の記載に含まれるか、あるいは訴因と認定事実が「公訴事実の同一性」の範囲内にあり、かつ、被告人の防禦に実質的な不利益を与えるおそれがないかによって判断される。
重要事実
被告人が他者と共謀の上、倉庫において落綿11俵を窃取したという訴因に対し、第一審判決は訴因変更の手続きを経ずに、これを2個の窃盗事実として認定した。被告人は、訴因変更なしに別個の窃盗事実を認定したことは違法であると主張して上訴した。
あてはめ
認定事実は、訴因に示された特定の月下旬、特定の共犯者、特定の場所、特定の客体(落綿11俵)という基本的事実関係において公訴事実と同一である。また、他に起訴されていた別罪との関係で、本件事実を1個と解しても2個と解しても、併合罪(刑法45条前段)として加重される刑期の範囲に変動はない。したがって、訴因変更を経ずに2個の窃盗を認定しても、被告人の防禦に実質的不利益を生ずるおそれはないと認められる。
結論
本件認定は適法であり、訴因変更手続きを欠くことによる法令違反は認められない。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する「防禦不利益説」を具体化した判例であり、特に罪数評価が異なる場合であっても、法定刑の範囲に影響がなく防禦の態様に変化がなければ訴因変更は不要とされる基準を示している。
事件番号: 昭和28(あ)1026 / 裁判年月日: 昭和30年10月18日 / 結論: 棄却
「被告人両名は共同して被害者某の足を蹴り顔面を殴打して同人に治療一週間を要する左眉毛部裂創並上下眼瞼皮下溢血腫張の傷害を与えた」との公訴事実に対し、訴因変更手続を経ることなく「被告人は被害者某の腰部を下駄ばきの足で蹴上げもつて暴行した」との事実を認定することは違法でない。