一 北緯二九度以南北緯二八度以北の南西諸島に属する奄美大島が出入国管理令の適用上本邦外の地域とされていた当時、同令第六〇条所定の手続をとらないで同地域におもむく意図をもつて不法に出国した罪については、その後右地域が本邦外の地域とされなくなつても、刑の廃止があつたものとはいえない。 二 (裁判官真野毅、同小谷勝重、同河村又介、同谷村唯一郎、同小林俊三、同垂水克己の少数意見)奄美大島は北緯二九度以南、北緯二八度以北の南西諸島であつて、本件犯行当時においては、関税法及び出入国管理令の適用についてはそれぞれ本邦外の地域として取り扱われていたのであるが、昭和二八年一二月二五日以降は、右の取扱を受けなくなつた。かかる場合においては、前記地域が右の取扱を受けていた間に行われた関税法違反及び出入国管理令違反の罪については、犯罪後の法令により刑の廃止があつたものと解し、被告人に対しては刑訴四一一条五号により原判決を破棄し、同法三三七条二号を適用して、被告人を免訴すべきものである。
出入国管理令の適用上本邦外の地域とされていた地域におもむく意図をもつて不法に出国した罪と右地域が本邦外の地域とされなくなつたことによる刑の廃止の有無
出入国管理令2条1号,出入国管理令60条,出入国管理令71条,出入国管理令施行規則(昭和28年12月24日法務省令89号9条による改正前のもの)1条,昭和28年12月24日法務省令89号9条(昭和28年12月24日法務省令89号9条(右の一部改正),刑訴法337条2号,裁判所法11条
判旨
行政措置により特定の地域が外国や本邦外とみなされなくなったとしても、当該措置以前に行われた関税法違反や不法出国等の行為については、刑法6条及び刑訴法337条2号にいう「刑の廃止」には当たらない。
問題の所在(論点)
行政措置や事実上の状況変化によって、行為時には犯罪構成要件に該当していた行為がその後の法令変更で形式的に該当しなくなった場合、刑訴法337条2号の「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当し免訴となるか。
規範
犯罪後の法令により、その行為が処罰の対象から外れることとなったとしても、それが単なる事実関係の変更(行政上の措置等)に基づくものであり、特定の行為を罰すること自体の当否という法的な評価に変更がない場合には、刑法6条及び刑事訴訟法337条2号に規定される「刑の廃止」には該当しない。
重要事実
被告人は、当時、行政上の取り扱いにより「外国」および「本邦外の地域」とみなされていた奄美大島に関し、関税法違反および出入国管理令違反(不法出国)の罪を犯した。その後、昭和28年12月25日の法務省令等により、奄美大島が日本本国に復帰し、法律の適用上「外国」や「本邦外」とみなされなくなったため、被告人は「刑の廃止」があったとして免訴を主張した。
あてはめ
本件における奄美大島の日本復帰は、行政上の管轄区域の変更という事実上の変更に伴うものであり、関税法や出入国管理令が目的とする秩序維持の必要性という法的評価そのものを変更したものではない。したがって、行為当時に「外国」や「本邦外」として禁止されていた行為が、後の地域復帰によって形式的に該当しなくなったとしても、それは「刑の廃止」には当たらないと解される。
結論
本件における地域復帰は「刑の廃止」には当たらないため、免訴すべきとの上告理由は採用できず、被告人の有罪判決は維持される。
実務上の射程
限時法や行政法規の改正に伴い、構成要件の前提となる事実関係や行政解釈が変更された場合の「刑の廃止」の成否を判断する際の指標となる。実務上は、処罰根拠となる法規自体の廃止(評価の変更)か、単なる事実関係の変化(事実の変更)かを区別する際の論拠として使用される。
事件番号: 昭和25(あ)2778 / 裁判年月日: 昭和32年10月9日 / 結論: その他
北緯二九度以南、同二七度以北の南西諸島が外国とみなされていた当時、免許を受けないで日本内地から同地域へ、若しくは同地域から日本内地へ貨物を密輸出し若しくは密輸入した罪については、その後右地域が外国とみなされなくなつた場合は、犯罪後の法令により刑が廃止されたものと解すべきである。