第一審が懲役一五年を言い渡した場合に、控訴裁判所が何等事実の取調をしないで第一審判決の量刑を不当として破棄し、みずから訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて無期懲役刑の言渡をしても刑訴第四〇〇条但書に違反しない。
刑訴法第四〇〇条但書違反とならない一事例
刑訴法400条,憲法31条,憲法37条,裁判所法11条
判旨
控訴裁判所が量刑不当を理由に第一審判決を破棄し、自ら重い刑を言い渡す場合、必ずしも自ら事実の取調を行う必要はなく、訴訟記録や第一審の証拠に基づき判断することが認められる。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が、自ら事実の取調を行うことなく、訴訟記録と第一審の証拠のみに基づき(書面審理のみにより)、第一審の量刑を破棄してより重い刑を科することが刑訴法400条但書および憲法の適正手続に反しないか。
規範
量刑の基礎となる事情の調査は、事案の性質に応じ裁判所の合理的な裁量に委ねられる。控訴審が刑訴法400条但書に基づき破棄自判する際、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠によって量刑が不当であると認められるときは、自ら新たな事実の取調を行わずに第一審より重い刑を言い渡しても、同条の解釈を誤ったものとはいえない。
重要事実
被告人に対し、第一審は懲役15年の判決を言い渡した。これに対し検察官のみが量刑不当を理由に控訴し、被告人は控訴しなかった。控訴審において、弁護人は事実の取調を請求したが、裁判所はこれを不必要として却下し、被告人が出廷しないまま結審した。控訴審は、第一審が認定した犯罪事実や情状を前提としつつ、書面上の調査のみに基づき、第一審判決を破棄して被告人を無期懲役とする自判を行った。
あてはめ
犯罪事実の確定には厳格な証明を要するが、量刑は犯人の悪性、再犯予防、社会的正義などの多角的評価に基づく裁量的判断である。第一審が認定した犯罪事実の態様や被害状況が、社会通念上、宣告された刑では軽きに失すると事後的に評価できる場合、控訴審は事後審査としてその不当性を正すことができる。本件のように、当事者が第一審の認定事実に争いがない場合、控訴審が改めて証人尋問等を行わなくとも、記録上の資料に基づき適正な刑を算定することは、裁判所の合理的な裁量範囲内といえる。
結論
控訴裁判所が自ら事実の取調を行わずに第一審より重い刑を科することは、刑訴法400条但書に適合し、適法である。したがって本件上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審の事後審査的性格を強調する判例であり、量刑不当による破棄自判において必ずしも直接主義・口頭主義が貫徹される必要がないことを示す。ただし、反対意見が指摘するように、死刑への変更や実刑への変更など、被告人の利益を著しく害する場合には慎重な手続的保障が求められる余地があり、実務上の運用では注意を要する。
事件番号: 昭和31(あ)3596 / 裁判年月日: 昭和32年4月17日 / 結論: 棄却
第一審判決が懲役刑の執行猶予を言い渡した場合に、控訴裁判所が何ら事実の取調をしないで第一審判決を量刑不当として破棄し、みずから訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて懲役刑(実刑)の言渡をしても刑訴第四〇〇条但書に違反しない。