第一審判決が懲役刑の執行猶予を言い渡した場合に、控訴裁判所が何ら事実の取調をしないで第一審判決を量刑不当として破棄し、みずから訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて懲役刑(実刑)の言渡をしても刑訴第四〇〇条但書に違反しない。
懲役刑の執行猶予を言い渡した第一審判決を控訴審が書面審理のみにより破棄しみずから実刑の言渡をする場合と刑訴法第四〇〇条但書
刑訴法400条
判旨
控訴審が第一審の執行猶予判決を破棄し、自ら実刑を言い渡す場合であっても、必ずしも独自の事実取調べを行う必要はなく、書面上の調査のみに基づき自判することも刑罰の衡平の観点から許容される。
問題の所在(論点)
控訴審において、第一審が言い渡した執行猶予付きの判決を破棄し、独自の事実取調べを行うことなく書面上の調査のみに基づき、自判によって実刑を言い渡すことが許されるか。刑訴法400条但書および刑罰の適正な量定の在り方が問題となる。
規範
控訴審は事後審的性格を有することから、第一審判決が言い渡した刑の量定が不当であると認める場合には、記録及び第一審において取り調べた証拠を調査した結果に基づき、自ら判決(自判)をすることができる。この際、執行猶予を付した一審判決を実刑に改める場合であっても、必ずしも独自の事実取調べを行うことを要件としない。
重要事実
被告人は第一審において、懲役1年、4年間の執行猶予を言い渡された。これに対し、控訴審(原判決)は第一審判決を破棄し、自判によって被告人を懲役1年の実刑とした。その際、控訴審の手続においては独自の事実取調べは行われず、第一審の訴訟記録や証拠資料等の書面上の調査のみによって判断がなされた。弁護人は、独自の事実取調べなしに実刑に改めることは審理不尽であり違法であると主張して上告した。
あてはめ
最高裁多数意見は、弁護人が主張する「審理不尽」および「量刑不当」は適法な上告理由に当たらないとした。これは、控訴審が第一審の証拠関係を精査した結果、刑の量定が不当であると判断した場合には、付加的な事実取調べをせずとも自判が可能であることを前提としている。これに対し少数意見は、自由刑の執行の有無という重大な変更を行う以上、独自の事実取調べを行うか、さもなければ第一審に差し戻すべきであると主張したが、法廷の結論としては書面調査に基づく自判を適法と認めた。
結論
控訴審が第一審の執行猶予判決を破棄して実刑の自判を行う場合、独自の事実取調べを行うことは必須ではない。したがって、書面上の調査のみによる自判も適法である。
実務上の射程
控訴審の事後審的性格を強調する判例である。答案上は、量刑不当を理由とする破棄自判において、独自の証拠調べを要するか否かが問題となる場面で活用できる。ただし、現代の運用では被告人の情状に関する新証拠の提出が一般的であるため、あくまで「手続的な最低限の要件」としての射程と理解すべきである。
事件番号: 昭和28(あ)3430 / 裁判年月日: 昭和32年4月26日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決が起訴にかかる公訴事実を認めるに足る証明がないとして、被告人に対し無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、自ら何ら事実の取調をすることなく訴訟記録および第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、刑訴第四〇〇条但書の許さないと…