一 刑法第九六条ノ三第二項にいわゆる「公正ナル価格」とは、入札を離れて客観的に測定さるべき価格をいうのではなく、その入札において公正な自由競争が行われたならば成立したであろう落札価格をいうのである。 二 右条項にいわゆる「不正ノ利益」とは、談合による利益が社会通念上いわゆる「祝儀」の程度を越え、不当に高額である場合をいう。 三 刑法第九六条ノ三第二項にいわゆる「談合」とは、競売、入札の競争に加わる者がたがいに通謀し、その中の特定の者を落札者ないし競落者たらしめるため、他の者は一定の価格以下または以上に入札または付値しないことを協定することである。
一 刑法第九六条ノ三第二項にいわゆる「公正ナル価格」の意義 二 右条項にいわゆる「不正ノ利益」の意義 三 刑法第九六条ノ三第二項にいわゆる「談合」の意義
刑法96条ノ3
判旨
刑法96条の3第2項の「不正の利益」とは、社会通念上の「祝儀」を超え不当に高額な金員等をいい、「公正な価格」とは自由な競争が行われた場合に成立したであろう価格を指す。同条後段の罪の成立には、公正な価格を害する具体的危険までは不要であり、不正の利益を得る目的があれば足りる。
問題の所在(論点)
1.刑法96条の3第2項にいう「公正な価格」および「不正の利益」の意義。2.同条後段の罪が成立するために、公正な価格を害する具体的危険が必要か。
規範
1.「不正の利益」とは、当初から工事施行の意思がない場合はもちろん、当初は意思があっても利益提供により放棄して談合に応じた場合を含み、社会通念上の祝儀を超え不当に高額な金員等をいう。2.「公正な価格」とは、客観的に測定される価格ではなく、当該入札において公正な自由競争が行われたならば成立したであろう価格をいう。3.「談合」とは、特定の者を落札させるため他の者が一定価格で入札しないことを協定することをいう。4.「不正の利益を得る目的」がある場合、公正な価格を害する抽象的危険があれば足り、具体的危険までは要しない。
重要事実
被告人らは、公共工事の入札にあたり、特定の業者を落札者とするための談合を行った。その際、落札者から他の業者に対して「談合金」名目の金銭が支払われること、あるいは工事施行の意思を放棄する代償として利益が提供されることが予定されていた。被告人らは、このような談合行為が刑法96条の3第2項(公契約関係競売入札妨害罪、旧法下の談合罪)にいう「公正な価格を害すべき目的」や「不正の利益を得る目的」に該当しないと主張して争った。
あてはめ
1.被告人らがやり取りした談合金は、単なる祝儀の域を超えて不当に高額であり、「不正の利益」に該当すると評価される。2.また、自由な競争があればより低い価格等で成立したはずであるから、談合により形成された価格は「公正な価格」を害するものである。3.後段の罪については、不当に高額な利益を得る目的で談合が行われた時点で、入札の公正を害する抽象的な危険が発生したといえる。したがって、現実に公正な価格が害されたという具体的な結果や危険の証明がなくても、本罪の成立を認めるのが相当である。
結論
本件談合行為は、公正な自由競争を阻害し、不当な利益を得る目的で行われたものであり、刑法96条の3第2項の罪が成立する。
実務上の射程
公契約関係競売入札妨害罪(現行刑法96条の6第2項)における「公正な価格」の定義を示したリーディングケースである。答案上は、落札価格の多寡にかかわらず、自由競争が阻害されたこと自体を捉えて「公正な価格を害する」と論述する際に用いる。また、目的犯としての主観的要件の解釈においても、具体的な実害の発生を不要とする抽象的危険犯的構成を提示する際に参照すべきである。
事件番号: 昭和29(あ)4165 / 裁判年月日: 昭和32年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公売等入札妨害罪(刑法96条の6第2項)における「不正の利益を得る目的」の成立には、必ずしも「公正な価格を害する目的」があることを要しない。 第1 事案の概要:被告人らは、公的機関が実施する入札(公売等)において、事前に特定の業者を落札者と決め、他の業者がそれに協力する等の談合行為を行った。弁護側…