一 建造物に侵入する罪は、故なく建造物に侵入した場合に成立する犯罪であるから、その侵入者が退去を求められて応じなかつた場合においても不退去罪は成立しない。 二 被告人Aは、第一審第四回公判において、適式な次回期日指定の告知を受け、第五回公判に出頭したのであるが、裁判所の職務執行を妨げたので、裁判所法71条1項の規定により退廷を命ぜられ、裁判所は、右被告人の退廷後、各証人を尋問し、これらの各証言を判示第二事実認定の資料に供していること、及び被告人Aに対する本件被告事件は必要的弁護事件でないので右第五回公判期日までに弁護人の選任なく、従つて右の各証人尋問は弁護人の立会もなくして行われたものであることが認められる。右の如く被告人が裁判所の職務の執行を妨げたため退廷せしめられるに至つた場合は、被告人自らの責において証人に対する審問権を喪失したものというべきであり、従つてこの場合被告人は、証人審問の機会を与えられなかつたということはできないものと解するを相当とする(昭和二七年(あ)四八一二号同二九年二月二五日第一小法廷判決、集八巻二号一九〇頁参照)
一 建造物侵入罪と不退去罪との関係 二 被告人が法廷の秩序維持のため退廷させられた場合とその証人審問権
刑法130条,憲法37条2項,裁判所法71条2項
判旨
被告人が法廷での不穏当な言動により退廷を命ぜられた場合、自らの責により証人審問権を喪失したものとみなされ、憲法上の権利侵害には当たらない。また、建造物侵入罪が成立する場合、その後の不退去罪は吸収され、別罪を構成しない。
問題の所在(論点)
1. 裁判所法に基づく退廷命令によって被告人が不在のまま証人尋問が行われた場合、憲法37条2項の証人審問権の侵害となるか。 2. 建造物への侵入行為が認められる場合に、退去しなかったことを捉えて別途不退去罪が成立するか。
規範
1. 憲法37条2項の証人審問権について:被告人が自らの不適切な行為によって裁判所法71条1項に基づく退廷命令を受けた場合、自らの責において審問の機会を放棄したものと解される。したがって、退廷中の証人尋問について審問の機会が与えられなかったとしても、同条項に違反しない。 2. 刑法130条の罪数について:建造物侵入罪は故なく侵入した際に成立し、退去するまで継続する性質を有する。よって、侵入行為自体が同罪を構成する場合、その後の不退去については別途不退去罪を構成せず、建造物侵入罪のみが成立する。
重要事実
被告人Aは、建造物侵入罪等の被告事件における公判期日において、裁判所の職務執行を妨げたため、裁判所法に基づき退廷を命ぜられた。弁護人の選任がない必要的弁護事件ではない状況下で、裁判所は被告人の不在中に複数の証人尋問を行い、それらを証拠として事実認定を行った。被告人側は、これが証人審問権を保障する憲法37条2項に反すると主張した。また、建造物侵入の態様と不退去の罪数関係についても争われた。
あてはめ
1. 証人審問権について:被告人Aは公判期日の告知を受け出頭したが、法廷内で職務執行を妨げる行為に及んだため、適法に退廷を命ぜられたものである。このように自ら審理を妨害して退廷を余儀なくされた場合は、被告人が自らの責任において審問の機会を喪失したといえる。よって、審問の機会が与えられなかったことにはならない。 2. 罪数関係について:建造物侵入罪は「侵入」により成立し、その状態は退去まで継続する。本件では侵入の事実が認められるため、侵入後に立ち去らなかったことは侵入罪の継続的な態様にすぎず、不退去罪を重畳的に認めることはできないと解される。
結論
1. 証人審問権の侵害には当たらず、憲法37条2項違反はない。 2. 建造物侵入罪が成立する場合、不退去罪は成立しない。
実務上の射程
法廷秩序維持のための退廷命令が出た場合の証人尋問の可否に関する重要判例である。答案上は、被告人が権利を「放棄」または「喪失」したと評価できる事実(妨害行為の程度など)を拾う必要がある。罪数関係については、侵入罪が「継続犯」的性質を有することを理由に、不退去罪との関係を否定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)3255 / 裁判年月日: 昭和28年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人または弁護人に反対尋問の機会が与えられていたにもかかわらず、自らの意思で立ち会わなかった場合には、証人尋問における反対尋問権の侵害には当たらず、当該証拠の証拠能力を否定する理由にはならない。 第1 事案の概要:被告人Dらの刑事事件において、証人の法廷外尋問が実施された。この際、裁判所は被告人…
事件番号: 昭和28(あ)4938 / 裁判年月日: 昭和29年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人および弁護人が公判廷に在席し、実際に弁護人による反対尋問が行われた場合には、憲法37条2項の証人尋問権(反対尋問の機会)は十分に保障されていると判断した。 第1 事案の概要:被告人が起訴された刑事事件において、第一審の公判期日に3名の証人が出廷した。当該公判廷には被告人およびその弁護人がとも…