被告人が外四名と共に被害者方に至り、被害者に対し「今日はばらしに来た、表に五人許りCがドスを持つて来ている」といつた所為は、暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項の「多衆の威力を示し」たことになる。
暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項の「多数の威力を示し」た一事例
暴力行為等処罰に関する法律1条
判旨
暴力行為等処罰に関する法律1条1項にいう「多衆の威力」とは、必ずしも刑法の騒乱罪等に求められるような集団の規模を要するものではなく、行為者が多衆の威力を背景としこれを利用して脅迫を行ったと認められれば、同条が適用される。
問題の所在(論点)
暴力行為等処罰に関する法律1条1項の「多衆」の意義が問題となる。具体的には、刑法106条等の騒乱罪における「多衆」の概念を援用すべきか、あるいは同法の趣旨に鑑み、より緩やかに解すべきかという点が論点となる。
規範
暴力行為等処罰に関する法律1条1項の構成要件は、多衆の威力を示し、または多衆を仮装して威力を示し、刑法に規定する特定の罪を犯すことである。この「多衆の威力」の意義については、刑法106条(騒乱罪)等の「多衆」の定義とは必ずしも一致するものではなく、行為の態様として多衆の威力を背景とし、これを利用して脅迫等の行為を行ったか否かによって判断される。
重要事実
被告人は、Aら4名と共に被害者Bの居宅に押し掛けた。その際、被告人は被害者に対し、「今日はばらしに来た。表に5人ばかりCがドスを持って来ている。こんな家は目茶苦茶にばらしてやる。お前の兄貴も刺してやる。生かしては置けぬ。」等と言辞を弄して脅迫し、玄関の硝子戸を蹴飛ばして硝子2枚を損壊した。
事件番号: 昭和25(れ)1648 / 裁判年月日: 昭和26年3月13日 / 結論: 棄却
原判示第二の事実によれば、被告人A、Bら一〇名に近い町方青年が、仲間の者を殴つたのは誰かなどと叫び、吊つてある蚊帳を切り落しなどしたうえ、Cを殴打したのであるし、また同第四の事実によれば、被告人Bら一〇名に近い者が、町方青年側として参集し、Dほか二名に対し出刃庖丁を出して指を切れなどとせまり、かつ右Dを殴打したのである…
あてはめ
本件において、被告人はAら4名と行動を共にし、さらに外部に「ドスを持った5人」が控えている旨を告げている。このような言動は、単なる個人の脅迫にとどまらず、現実に存在する、あるいは存在すると信じ込ませた複数の人間による集団的な力を背景としているといえる。被告人は、この多衆の威力を被害者に示し、これを利用して脅迫に及んでいることから、同条にいう「多衆の威力を示した」ものと認められる。したがって、刑法の騒乱罪に関する判例を援用して多衆の意義を狭く解釈する余地はない。
結論
被告人が多衆の威力を背景とし、これを利用して脅迫を行った以上、暴力行為等処罰に関する法律1条1項の罪が成立する。
実務上の射程
暴力行為等処罰法における「多衆」の概念は、刑法の公共の平穏を害する罪(騒乱罪等)とは異なり、個人に対する暴力的不法行為を強化して処罰する趣旨であるため、少人数であっても威力を背景としている限り広く肯定される。答案上、3〜5名程度の共犯者が関与する事案で同法を適用する際の解釈指針として有用である。
事件番号: 昭和28(あ)1404 / 裁判年月日: 昭和28年10月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力行為等処罰に関する法律1条1項における「多衆の威力」を示した暴行の成否について、事実認定に基づき多衆の威力の活用が認められる場合には同条が適用される。 第1 事案の概要:被告人両名は、多人数で集合し、その多衆の威力を示す態様によって被害者に対し暴行を加えた。第一審判決はこの事実を認定し、被告人…
事件番号: 昭和29(あ)715 / 裁判年月日: 昭和31年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴力行為等処罰に関する法律1条1項後段に規定される「数人共同シテ」の意義は、「二人以上共同して」を意味すると解するのが相当である。 第1 事案の概要:被告人らが暴力行為等処罰に関する法律違反等の罪で起訴された事案において、弁護人は同法1条1項後段の「数人共同シテ」の要件について、その「数人」の意義…
事件番号: 昭和31(あ)2696 / 裁判年月日: 昭和32年4月4日 / 結論: 棄却
一 労働争議中、労組組合員が、某会社の二階庇に掲げてあつた第二組合の木製看板を取り外し、これを同所から一四〇米離れた他家の板塀内に投げ棄てた場合および同会社の事務所土間に置いてある第二組合員家族より同組合員宛ての輸送小荷物に取りつけてあつた荷札を剥ぎ取り、これを持ち去つた場合には、いずれも刑法第二六一条の器物損壊罪が成…
事件番号: 昭和29(あ)1896 / 裁判年月日: 昭和31年5月29日 / 結論: 棄却
原審は「被告人らは、もし運転中止の要求に応じなければ運転手Aに対し危害をも加えかねない気勢を示して同人を畏怖せしめた」事実をも認定しているのであるから、かような事実を以て同条にいわゆる「威力」に該るものとした原判決は正当である。