一 麻薬取締法第六七条等は憲法第二二条第一項に違反しない。 二 一審裁判所は、被告人、弁護人の出頭した公開の公判廷で審理を行い、被告人は犯罪事実をすべて自認し、弁護人同意の下に証拠書類について適法に証拠調を終つた上、弁論を終結して判決し、控訴審もまた公開した公判廷において出頭した弁護人の控訴趣意書に基く弁論並びにこれに対する検察官の意見をきいた上結審して、控訴を理由ないものとして棄却する旨の判決を宣告した以上憲法第八二条に違反するところはない。 三 麻薬取締法違反の常習営利の一罪を構成する行為について追起訴状が提出されても、それが右一罪を構成する行為で起訴状に洩れたものを追加補充する趣旨でなされたものと認められる以上、二重起訴の違法はない。 四 旧麻薬取締法の一部を改正して、常習行為の加重処罰を規定した昭和二七年法律第一五二号の施行期日の前後にまたがる行為は、それが不可分の関係にあつて一罪と認められる場合でないかぎり、これをその前後によつて区分し、それぞれ行為時法に従つて法律上の処遇を判断すべきものと解するを相当とする。
一 麻薬取締法第六七条等の合憲性 二 書面審理と憲法第八二条第一項 三 包括一罪を構成する一部の行為に対する追起訴状の提出と二重起訴 四 旧麻薬取締法の一部を改正する昭和二七年法律第一五二号の施行期日の前後にまたがる常習行為の適条
麻薬取締法67条,麻薬取締法66条,麻薬取締法64条,麻薬取締法12条,麻薬取締法附則第2項,16項,憲法22条1項,憲法82条1項,憲法39条,刑訴法312条,刑訴法309条2項,刑訴法338条3号,刑訴規則209条,刑訴規則205条2項,旧麻薬取締法(昭和27年法律152号による改正後のもの)57条ノ3,旧麻薬取締法(昭和27年法律152号による改正後のもの)57条ノ4,旧麻薬取締法(昭和27年法律152号による改正後のもの)附則2項
判旨
常習犯を処罰する規定が新設された場合、施行前後の行為が不可分な一罪と認められない限り、各行為を施行前後で区分し、それぞれ行為時法を適用すべきである。また、麻薬取締法による譲受等の禁止は公共の福祉に基づく正当な制限であり、憲法22条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 麻薬の譲受・譲渡・所持等の禁止規定が憲法22条1項に違反するか。 2. 常習加重規定の新設前後の行為を一括して新法の常習犯として処断することが、憲法39条に違反するか。
規範
1. 憲法22条1項の保障する職業選択の自由も、公共の福祉のため必要な制限を受ける。麻薬は心身への危険性が極めて高く、その取扱いの制限は保健衛生上の要請に基づく正当な制限である。 2. 刑罰法規の変更があった場合、施行期日の前後にまたがる行為が不可分の関係にあって一罪と認められる場合を除き、各行為を行為時法に従って個別に判断すべきである。事後法の禁止(憲法39条)の観点から、新設された常習犯規定を施行前の行為に遡及適用することは原則として許されない。
重要事実
被告人は、常習としてかつ営利目的で麻薬の譲受、譲渡、所持等を行ったとして麻薬取締法違反で起訴された。第一審判決は、常習加重規定(旧法57条の4、現行法67条2項)が新設された昭和27年5月28日より前の譲受行為等についても、施行後の行為と一括して包括一罪(常習犯)として処断した。これに対し被告人が、事後法の禁止(憲法39条)や職業選択の自由(22条1項)への抵触を理由に上告した事案である。
あてはめ
1. 麻薬の危険性に鑑みれば、厚生大臣の許可なき譲渡等の禁止は公共の福祉に適合する。よって、これに違反する者を処罰する規定は憲法22条1項に違反しない。 2. 本件では、法改正前の行為と施行後の行為が当然に不可分の一罪を構成するとは認められない。したがって、施行前の行為を区分せず一括して新法の常習犯として処断した第一審の擬律には違法がある。しかし、施行前の行為を行為時法で処断し、施行後の常習犯と併合罪加重(刑法45条前段、47条)を行う方が、一括処断よりも被告人の不利益となる。したがって、原判決の擬律の誤りは、判決に影響を及ぼさない。
結論
上告棄却。麻薬取締法の制限は合憲であり、また施行前後の行為を一括処断した擬律の誤りは、被告人の不利益とならないため、破棄理由にはあたらない。
実務上の射程
法改正(特に加重規定の新設)を跨ぐ継続的犯行の処理において、原則として新旧法を区分して適用すべきとする基準を示した。包括一罪として新法を適用できるのは、行為が「不可分の関係」にある特段の事情がある場合に限定される。また、擬律に誤りがあっても、正しく適用した場合に被告人により不利益な結果となる(不利益変更禁止の法理との関係)ならば、上告理由とはならないという実務上の運用を認めている。
事件番号: 昭和27(あ)309 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
麻薬所得の罪において、一個の所持が罰則施行前より罰則施行後まで引き続きなされかつ新旧両法に跨つてなされたとしても、その一個の所持全体に対して新法を適用して処置すべきものであつて、罰則施行前の部分を分割して無罪の言渡しをなしまたは旧法の部分を分割してこれに対し旧法および刑法第六条をも適用すべきものではない。