一 検察官が起訴当時所在不明であることの明らかな被告人に対し公訴を提起した場合、その起訴状謄本の送達が不能になるのをまたないで、送達不能の証明資料を裁判所に提出することは、刑訴規則第一六六条の禁ずるところでないと解するを相当とする。 二 論旨は違憲をいうが、その実質は、被疑者に被疑事実について弁解の機会を与えないで起訴することが、訴訟法違反であることを主張するに外ならないものであつて、上告適法の理由とならない(被疑者が逃げ隠れしていた等のため捜査官憲法の取調を受けず、被疑事実についての弁解の機会が与えられないままで起訴されたからといつて、その起訴が違法であると解すべき理由は少しもない)。 三 刑訴第二二七条による証人尋問をした裁判官は、当該被告事件の審判から除斥されるものではない。
一 刑訴規則第一六六条にいう証明資料の差出時期 二 逃亡中の被疑者に対する起訴の効力 三 刑訴第二二七条による裁判官の証人尋問と除斥原因
刑訴法255条,刑訴法247条,刑訴法227条,刑訴法20条,刑訴規則166条
判旨
起訴状謄本の送達不能の証明資料として供述調書を提出することは、裁判官に予断を生ぜさせる虞がない限り起訴状一本主義に反せず、また被疑者に弁解の機会を与えないままなされた起訴も直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
1. 起訴状謄本の送達不能の証明資料として供述調書を提出することが起訴状一本主義(刑訴法256条6項)に抵触するか。 2. 被疑者に弁解の機会を与えずに起訴することが適法か。 3. 227条の証人尋問に関与した裁判官に除斥原因があるか。
規範
1. 起訴状一本主義(刑訴法256条6項)の趣旨は裁判官に予断を生じさせないことにある。したがって、送達不能を証明するための資料提出であっても、事件につき予断を生じさせる虞のある書類に当たらない限り、同条項に違反しない。 2. 被疑者が逃亡等により取調を受けられない場合、弁解の機会を与えないまま起訴しても違法ではない。 3. 刑訴法227条に基づく証人尋問を行った裁判官は、当然には当該被告事件の審判から除斥されない。
重要事実
検察官は、被告人の所在が不明であったため、起訴状謄本の送達不能を証明する資料として、被告人の妻が「夫(被告人)が近頃不在である」旨を述べた検察官面前供述調書を裁判所に提出した。また、被告人が逃亡していた等の事情により、被疑者取調による弁解の機会を与えないまま公訴を提起した。さらに、第一審の担当裁判官は、起訴前に本件に関する227条の証人尋問を行っていた。
あてはめ
1. 提出された妻の調書は、単に被告人の不在という事情を述べるに過ぎず、犯罪事実に関する証拠ではないため、裁判官に事件の予断を生ぜさせる虞はない。したがって、送達不能の証明のために提出しても刑訴法256条6項に違反しない。 2. 被疑者が逃げ隠れしていたために取調が不可能な状況下では、弁解の機会を付与せずになされた起訴も適法である。 3. 刑訴法20条各号の除斥事由に227条の尋問関与は含まれず、本件においても除斥事由には当たらない。
結論
本件各手続に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
起訴状一本主義の例外として「送達の付随的手続」での資料提出を認める際の基準を示す。予断を生じさせる内容か否かが判断の分水嶺となる。また、被疑者取調が起訴の必須要件ではないことを明示しており、実務上の起訴の有効性を支える判断である。
事件番号: 昭和29(あ)2540 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官面前調書の証拠能力に関し、伝聞例外の要件たる『特信情況』の存否は事実審裁判所の裁量に属する。また、公判において被告人に反対尋問の機会が十分に与えられていた場合には、当該調書の証拠採用は憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは公職選挙法違反等に問われた事案において、検察官作成のAら計6…