外国人登録証明書に貼付してある写真を恣に剥ぎとり、他人の写真を貼り代えた場合には、公文書偽造罪が成立する。
公文書偽造罪にあたる一事例
刑法第155条1項
判旨
特定人のために発行された公文書の写真を別人のものに貼り替える行為は、変造にとどまらず、文書の同一性を損なう別個の新たな文書を作成したものとして公文書偽造罪が成立する。
問題の所在(論点)
有効に発行された公文書(外国人登録証明書)の一部である写真を他人のものに貼り替える行為が、既存の文書に非本質的な変更を加える「変造」にとどまるのか、それとも新たな文書を作成する「偽造」に該当するのかが問題となる。
規範
既存の文書に修正を加える行為が「変造」ではなく「偽造」に該当するかは、修正によって文書の同一性が失われ、新たな証明力を有する文書が作成されたといえるかにより判断する。証明書における写真の貼り替えは、その文書が示す特定の主体との結びつきを根本から変更するものであるため、全く別個の新たな証明書を作成したものと解すべきである。
重要事実
被告人らは、外国人登録証明書において、本来特定人のために発行され、その者の写真が貼付されていたものを、恣意的に剥ぎ取った。その上で、当該特定人とは異なる他人の写真を貼り替え、その他人についての証明書であるかのような外観を作出した。
あてはめ
外国人登録証明書は特定の個人の身元を証明する機能を有しており、写真は当該個人を特定するための本質的な要素である。本件において、元の写真を剥ぎ取り別人の写真を貼る行為は、証明書が表彰する対象(被証明者)を別人へと入れ替えるものである。これは単なる内容の改ざん(変造)の域を超え、当該他人のための「全く別個の新たなる証明書」を創出したものと評価できる。したがって、作成権限のない者が新たな公文書を作成したといえる。
結論
特定人のために発行された証明書の写真を他人のものに貼り替える行為には、公文書偽造罪が成立する。
実務上の射程
文書の同一性を失わせる程度の変更が「偽造」にあたることを示す。特に、写真付き身分証明書における写真の差し替えは、文書の個別性を決定づける重要部分の変更であるため、一貫して偽造と解される。答案上、変造か偽造かの区別が問題となる場面で、文書の本質的機能に着目して論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和33(あ)2533 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: 棄却
外国人登録法第一八条第一項第二号にいわゆる第三条第一項の規定による申請に関し虚偽の申請をした者には、登録義務者たる外国人のため虚偽の申請行為をした者およびこれに共謀した者(外国人たると否とを問わず)を含むと解すべきである。
事件番号: 昭和58(あ)257 / 裁判年月日: 昭和59年2月17日 / 結論: 破棄差戻
本邦に密入国し外国人の新規登録申請をしていないにもかかわらず、甲名義で発行された外国人登録証明書を他から取得し、その名義で登録事項確認申請を繰り返すことにより、自らが外国人登録証明書の甲その人であるかのように装つて本邦に在留を続けていた被告人が、甲名義を用いて再入国許可申請書を作成、行使した所為は、被告人において甲とい…
事件番号: 昭和34(あ)1848 / 裁判年月日: 昭和35年1月12日 / 結論: 棄却
特定人に交付された自動車運転免許証に貼付してある写真をほしいままに剥ぎとり、その特定人と異る他人の写真を貼り代え、生年月日欄の数字を改ざんし全く別個の新たな免許証としたときは、公文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和23(れ)619 / 裁判年月日: 昭和23年10月16日 / 結論: 棄却
原判決の事實摘示と、これが採證の用に供した各始末書、申述書の記載との間に、被告人が僞造轉出證明書に使用した架空人物の氏名不一致の點がありとしても、作成名儀人その他本件僞造文書の重大な要素についての記載内容において、兩者が一致する以上、右判示を違法とすることはできない。